論文で一番大事なことは何だろうか?結果、データである。むしろ論文は結果、データがすべてである。体裁がどんなに整ってようがデータがクソな論文はクソだし、どんなにダサい図表や書きっぷりをしていようとデータに新規性があれば論文の価値はゆるぎない。やれnatureだとかやれScienceだとかに通りやすくなる書き方を教えるよと偉そうに講釈を垂れる文章はあまたあるし、ラボの先輩がしたり顔で説教してくるがそんなことはデータセットの完備性と透徹したロジック、そして結論の斬新さの前には無意味である。ラボに入ってn年、そろそろ一本目の論文を書き始めた大学院生はせっかく書き上げた原稿に対して、内容のことではなく体裁のことばかりにコメントしてくる共著者にうんざりしているころではないだろうか。そんないわゆる論文マナー講師がいかにも指摘してきそうなことを下記に列挙した(随時更新予定)。こういうのは一切無視して、自分が納得できる論文を自信をもって投稿しよう。自立した研究者になるためにはそういう気概が実は一番大切だ。
(1) 本文中でのFigureへの初参照は順番通りにする。
論文を本文の頭から順番に読んでいったときにFig. 1(a)が最初に言及され、次にFig. 1(b)が言及され...というようにFigureにつけた番号とパネル記号の順番通りに言及がなされるようにするのがマナー。例えばFig. 1(a)への言及がまだなされないうちにFig. 2(c)が参照されたりしないようにしよう。
もし番号通りではない方がロジックの通りがよい場合は図の構成が不自然ということなので、図を作り直した方がいい。タイリング的なおさまりの良さとFigureの言及準位はしばしば競合するがなんとかやりくりするのがマナーである。また論外ではあるが、Figureパネルとして見せているのに本文中で言及してないパネルがないようにするのも忘れないようにしよう。
(2) Equationなどで記号を導入したら定義を明記する。
Equationで物理量などに記号を導入して議論を簡潔にできる。ただし、記号の定義が書かれていないと、自分ではわかっているからいいように思うが、読者にとっては意味不明な文章になるので、記号の初登場時に忘れずに定義を明記しよう。例:"\(A=B^2C\), where \(A\) is xxx, \(B\) is xxx, and \(C\) is xxx."。
ボルツマン定数(\(k_{\text{B}}\))やプランク定数(\(h\)や\(\hbar\))など自明にも思えるものも書いておくのが望ましい。磁場\(H\)、温度\(T\)もよく使う記号なので定義を書かなくても可読性は落ちにくいが、分野外の人にも原理的には読めるようにしておくのがマナーである。というより\(H\)や\(T\)とだけ書いていたらたとえそれが磁場や温度のことだとわかっても何の磁場?何の温度?となってしまう恐れがある。ちゃんと外部磁場、サンプル温度というように明記した方がよい。
(3) Figure内でのフォントは種類・サイズを統一する。
Figure内で凡例や注釈、軸ラベルのために文字を記入することが多い。これらはすべて同じ種類のフォントでサイズも同じにしておくのがマナー。たまにパネル記号の(a)とかだけがTimes New Romanのやたらでかいフォントで、軸ラベルは解析ソフトの小っちゃいデフォルトフォントだったりするのを見るがまあ見栄えが悪い。パワポをぽちりながら図を作ったことがバレバレである。
(4) 略称を導入するときは”正式名称(略称)”というように本文中で言及する。
論文中で長い単語が繰り返し出てくるときは略称を導入して短くしよう。例: spin density wave = SDW。ただし本文中で何の断りもなくSDWと使い始めると何のことかわからないので初出時には正式名称を書き、そのあとに( )で略称をくくってわかるようするのがマナー。例: Spin density wave (SDW) is an interesting magnetic state in magnets.また略称は便利だが1本の論文中にいくつもの略称が出てくると逆に読みにくくなるのでせいぜい2-3個くらいにしておこう。
(5) 1パラグラフ内で新規に言及するFigureパネルは1個。
論文を書くときはパラグラフライティングを心がけるのが基本で、要するに1パラグラフ1メッセージである。これはFigureを作るときも同様で1パネル1メッセージになるようにつくると読者にとってFigureの意図を読み取りやすい。ということはパラグラフライティングをすると1パラグラフに新規に言及されるFigureパネルは1個くらいになっているのが自然である。
論を補強するために過去に言及したFigureパネルを再度引用することはあってもよいが、たとえばFig. 2のことに初言及するパラグラフ内で後半にFig. 3のことについても触れ始めるのはマナー違反である。この場合、Fig. 3に言及したいならパラグラフを改める必要がある。
(6) Figure captionには図に関する事実のみ説明し、筆者の解釈・主張は書かない。
Figureにはパネルの下部にcaptionといってFigureが何の図なのかを説明する短い文章がついている。たとえばFig. 1(a)が磁化率の温度依存性を測った図だったら、"Fig. 1: (a) Temperature dependence of magnetic susceptibility."というようになる。このとき温度を下げながら測ったデータと上げながら測ったデータを重ねて表示したいとする。これを同じ太さ、同じ色のデータ点で表示してしまったら読者はどっちがどっちなのかわからないので、色やシンボルを変えると便利である。その際、captionに一方の色の線は温度降下時のデータで、もう一方のは温度上昇時のデータである、といった具合にFigureを理解するために必要な情報を書いておくわけである。
captionには上記のようにFigureに関する事実のみを書くようにして、図から筆者が読み取った解釈や主張は書かないようにしよう。例えば磁化率がある温度\(T_{c}\)以下で急激に上昇し強磁性転移している場合、"We observed a ferromagnetic transition at \(T_{c}\)."というようなことはcaptionには書かず、本文に書くのがマナーである。とはいえ強磁性転移の解釈が自明なら、転移点付近のキンクに印(X)でもつけて"X denotes the transition from paramagnetic to ferromagnetic state at \(T_{c}=x\) K."と書くのはよいのではないかと思う。
(7) 参考文献は番号順に引用する。
議論の中で先行研究を引用するとき、文献リストの番号を付記する。本文を頭から読んでいったときに最初に引用される文献は文献1番、次に引用されるのが2番というように番号順になるようにしよう。これはLatexを使ったときは自動的にリストがソートされるのであまり気にしなくていいが、Wordで書く場合は文献を追加するたびに順番がずれてしまうので修正する必要がある。
(8) 論文中の同じ記号は立体/斜体, 太字/細字をそろえる。
論文中で物理量などを定義した記号はよく斜体で書かれる。またベクトルは太字で書くことが多い。例: 温度は\(T\), 速度は\(\bf{v}\)。いったん斜体や太字で書くように決めたら本文中のどこでも同じ記号は同じスタイルで書くようにするのがマナー。あるところで\(T\)と書いて、ほかでは\(\text{T}\)で書くといったことがないようにしよう。
忘れやすいのがFigure中の記号である。本文中では斜体\(T\)となっているのにFigure中で同じ記号に対して立体となっていたりすると不自然である。\(\phi\) (\phi)と\(\varphi\) (\varphi)も本文-図間で統一させられるようにしたい。
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