Thursday, October 24, 2024

その物理量、みつもれますか?

実験でデータが得られたらそれで終わりではない。一つの実験値からいろいろなことが見積もれる。必要になるたびにいちいち導出するのは面倒なのでメモしておく。当然適切な使い方をしなければ見積もりは間違った推論を引き起こす。見積値を用いて考察するときの注意点も追記していく。

目次

物理定数

単位を換算したりするときにこれらの量を使うことになる。値はウィキペディアから取ってきているが、たぶんあっているだろう。安達磁性の裏表紙には電子質量が~1034 kgと書いてある。深刻な誤植が多い教科書として有名だがこんなところにまで誤植があるのは本当に信じられない。

電荷素量 e = 1.602176634E−19 C

プランク定数 h = 6.62607015E−34 Js

ディラック定数 =h/2π = 1.054571817E-34 Js

ボルツマン定数 kB = 1.380649E−23 J K1

アボガドロ定数 NA = 6.02214076E23 mol1

気体定数 R=(NAkB) = 8.31446261815324 J K1 mol1

光速 c = 299792458 m/s

電子質量 me = 9.1093837139E−31 kg

ボーア磁子(μB=e2me):9.2740100657(29)E−24 J T1


比熱

電子状態密度とデバイ温度(D(EF), ΘD)

固体の比熱(Cp)が伝導電子、フォノンの寄与からなるとすると、十分低温で

Cp=γT+βT3

と書ける。単位はJ K1 mol1γは電子比熱で単位はK2 mol1βT3は音響フォノンの比熱。ここで大事なのはmolが何に対する量なのかということである。たいていは組成式のformula unitが1 mol集まったときの量を考えているが、別に単位胞1 molでもいいし、単体物質だったら原子1 molだってよい(2原子分子だったらどうとるのがいいのだろう?)。単位の見た目からはそのことが分からなくなっている。

電子比熱はフェルミエネルギーにおける状態密度(D(EF))と関係していて、

γ=π23kBD(EF)

と書ける。後者の単位はeV1 f.u.1が使われることが多い。f.u.はここでも代替として単位胞あたりだったり原子当たりだったりする。表記から省かれることがあるが明らかに混乱のもとである。γの測定値から見積もる場合、電荷素量とアボガドロ定数でスケールする。

D(EF) [eV1 f.u.1] = γ [J K2 mol1] N1A3π2k2Be

これと何かを比べるとしたら、ARPESや量子振動でフェルミオロジーをすることによってフェルミ面の形を解析した場合だろう。i番目のフェルミ面の大きさが第一ブリルアンゾーン内でS3]であればそれをエネルギー微分して

Di=18π3SE×s×v [Å3 eV1]と求められる。1/8π3は単位体積あたりの物質に対して、運動量空間の単位体積当たりの状態数で、Sにこれをかけないと状態密度にならないから必要である。sはフェルミ面iがスピン縮退していれば2, していないなら1である。系の空間・時間反転対称性の破れ方によってスピン縮退は解けたり解けなかったりするので、i番目のフェルミ面がどうなっているのか注意が必要だ。vはバレー自由度で例えば六方晶のM点のフェルミ面ならコピーが3つあるので3になる。エネルギー微分とは何だろうかというとバンドの傾きなので、有効質量に関する情報が何かしら必要になる。有効質量は一般的に異方的なので、複雑なフェルミ面の全情報を得ることは困難で、何らかの近似が必要になるだろう。回転楕円体とかまでなら比較的に簡単に計算できる。大事なのはここでも状態密度の単位で、[Å3 eV1]をf.u.あたりに変えることが必要になる。


デバイ模型では体積Vの固体の中にN個の点(振動子)があると考えて系の全比熱を以下のように書く。

C=9NkB(TΘD)3ΘD/T0z4ez(ez1)2dz

積分は低温極限で4π415になるので

CLT=12π45NkB(TΘD)3

となる。単位はこの時点ではJ K1。実験値と合わせるためにf.u. molあたりの量にすると、体積Vの中にf.u.体積vV/v個ある。これはV/(vNA) molあるので

CLT [J K1 mol1] =12π45(NvV)NAkB(TΘD)3=12π45nNAkB(TΘD)3

ここでf.u.あたりの振動子数としてn=Nv/Vを導入した。

フォノン比熱はデバイ温度(ΘD)を使って、

β=12π4kBNA5Θ3Dn

と書けるのでデバイ温度は

ΘD=312π4kBNA5βn

から見積もれる。

ここでデバイ温度の単位は単にKのみなので、電子比熱にはあったmolやf.u.の定義に関するわずらわしさが一見するとなくなってしまったように見える。しかしそうではなく、継続してどのようなmolあたりの比熱から見積もったデバイ温度なのか?がほかの物理量を見積もるときの定義式に影響を与える。単位からはその情報が完全に抹消されるのでむしろ電子比熱のときより病的であると言える。

また謎の因子nを説明していない。これはf.u.あたりの振動子の個数で定義され、デバイモデルを適用するときにどのように仮定を置いたかにも影響される因子である。例えば単体で単位胞当たり1原子しかないなら、振動子はvあたり1つなのでN=V/vとなって、n=1となって単純だ。しかし単体でない、単位胞内に複数原子がある、単位胞内に複数f.u.あるとなった時点で、振動子をいくつに取るのかはフォノン分散にどのようなモデルを適用したかに依存する。これはどこまでを音響フォノンとみなして、どこまでを光学フォノンとみなすかと関係している。たとえばf.u.あたりp個の原子がある場合、格子振動の自由度は3p個ある。このうち3つを音響フォノンに割り当てるとn=1になって、のこりの3p3個は光学フォノンに割り当てることになる。一方、n=pとするとすべての格子変位の自由度を音響フォノンに割り当てることになる。明確な基準はなく、解析する人の好みで変えていいことになっている。それにもかかわらず文献ではそのことを明記しないことがほとんどである。そのためデバイ温度は異なる文献同士で値を比較するのはほとんど不可能に近い。それにもかかわらず誰も気にしていない、そんな物理量(?)である。

具体例をあげよう。

(1)CaF2の比熱。f.u.あたり3原子あるのでn=3とおく(doi.org/10.1103/PhysRev.117.709)。これは光学フォノンまですべて含めてデバイ模型で近似するということである。これはまあ組成式も単純だし、良しとしよう。

(2)スピネルFeMn2O4の比熱。f.u.あたり7原子あるのでn=7とおく(doi.org/10.1103/PhysRevB.97.024410)。ちゃんと書いてて偉い。

(3)YBa2Cu3O7δの比熱。f.u.あたり13原子あるのでn=13とする(doi.org/10.1103/PhysRevB.36.2401)。δのことはどうでもいいようだ。それにしても4種類13原子をすべて音響フォノンの振動子とみなすのはなんかもやっとする。

(4)フラーレンの比熱。フラーレンはC60の分子式の物質で250 K以下で分子が4つ一組になり、単純立方格子を形成している。4分子をひとまとめの点にして振動子とみなすならf.u.あたりの振動子はn=1/4になる(doi.org/10.1103/PhysRevLett.68.2046)。一気に少なくなった。フラーレンだとさすがに各分子60個の原子からなるから、f.u.あたりの振動子数として60を採用するのは気が引けるようだ。線引きはどこにあるんだろう。

(5)triphenylene2,3,6,7,10,11-hexacarboxylic acid methyl esterの比熱。もはや1分子の原子数がよくわからなくなっているが、1分子当たり1振動子とおくようだ(doi.org/10.1021/jacs.3c07921)。これは自然な定義な気がする(もちろん明記しないと意味がない)。

(6)ペロフスカイトの音速。パターンが見えてきたよと思い始めたところ悪いが例外(doi.org/10.1016/0031-9201(89)90253-7)。これはABX3のペロフスカイト物質に対してf.u.あたりn=1と置いている。5ではなくて残念。とはいえ定義を明記しているだけましである。


熱輸送

音速(vs)

音響フォノンの分散のΓ点近傍の傾きω=vskで音速vsが与えられる。デバイ模型ではT3比熱に寄与する音響フォノン分散が存在する運動量空間の領域を半径kDの球で近似する。そのとき振動子の個数と球の中の状態数が一致するようにkDをきめるので、

18π34π3k3D=n/v

となる。nはf.u.あたりの振動子数。vはf.u.あたりの体積である。

vskD=kBΘD

によって音速の表式が得られるので、音速はデバイ温度を使って

vs=kBΘD(6π2n/v)1/3=kBΘD(6π2nNAρM)1/3

と書ける。最後の式はρが密度、Mが分子量で、v=M/(NAρ)を書き換えただけだが、文献によってはこっちの方がでてくる。

音速からデバイ温度を消し去って、フォノン比熱係数βだけの式にすれば恣意性のあるnから解放される。その際、比熱係数は単位体積当たりの量β=β/(NAv)=12π4kB5Θ3Dnv [J K4m3]にスケールしておく。

vs=(2π25)1/3k4/3B(β)1/3 [m/s]


平均自由行程(l)

熱伝導率κは温度勾配がある系における熱流量を特徴づける量で

Jx=κxx(Tx)

である。テンソル量なのでxx成分を書いた。単位はW K1 m1で与えられることが多い。

初等的な熱拡散の考察から熱伝導率は以下で与えられる。

κ=13Cpvsl

ここで、l=vsτは平均自由行程で散乱時間τまでの間に進む距離である。熱伝導率、フォノン比熱、音速のそれぞれが与えられていればlを見積もれる。

l=3κ/Cpvs

ここで比熱は単位体積当たりの量になるように単位を変換する必要がある。もともとf.u. molあたりで測定していた場合はf.u. molあたりの体積が必要になる。これは単位胞の体積と同じになるとは限らない。単位胞内にf.u.が何個あるかよく確認しよう。

低温ではフォノンの散乱は抑制され、試料端での散乱のみになる。lの温度依存性と試料寸法を比べて散乱メカニズムの推移を観察できる。


輸送

抵抗率(ρxx):

抵抗試料に電流Iを流したときの電圧がVだとして、オームの法則V=RIによって抵抗(resistance)を定義する。抵抗率(resistivity)は試料の寸法の因子を規格化したもので、電流密度(単位断面積当たりの電流) Jiが流れているときの電場(単位長さ当たりの電圧変化) Eiは抵抗率テンソル(ρij)をつかってEi=ρijJjと書ける。ここでi=x,y,zはデカルト座標系の各方向。

xx成分の抵抗率は

ρxx=Rwt/l

と書ける。ここでwは試料の幅、tは試料厚さ、lは電圧を測定した電極間の距離である。ρxxの単位はOhm cmなどである。

それぞれの寸法がt=200 μm, w=500 μm, l=1000 μmの試料を測定して、1 mA流して10 μVの電圧を観測したらρxx=100 μOhmcmである。もし1 μOhm cm以下の抵抗率を測定したい場合、シグナルを大きくするにはどうしたらいいだろうか?ノイズレベルと得られる試料の大きさと相談だ。


残留抵抗比(RRR):

抵抗率の高温~300 Kなどでの値ρ300 Kと最低温~ 2 Kなどでの残留抵抗値ρ0の比:ρ300K/ρ0をRRRという。金属というものは低温にいくにしたがって抵抗が下がるものというゆるい定義があるので(半導体的な場合はこの逆になる)、RRRは1より大きく、大きければ大きいほど良い金属というわけである。高温ではフォノン散乱などの影響で高い抵抗を示していたものが、温度を下げるにしたがって不純物散乱のみが残るというわけである。

抵抗を使ってもこの値は変わらないので、比較対象となる文献値が抵抗でしか与えられていないときはこれを見積もればよい。無次元量。10前後を目指したい...


ホール抵抗率(ρyx):

印加電流(Ixとする)に対して横方向(yとおく)に生じる電圧(Vy)をホール電圧という。抵抗と同様、ホール抵抗率(ρyx)に換算できて、

ρyx=Vy/Ixwt/l

となる。ここでlはホール電圧を測定した電極間距離(のy軸射影成分)。wlはほぼ同じになるので、ホール抵抗率の小さな試料に対してシグナルVyを大きくしたいならtを薄くするかIxを大きくするしかない。そうはいってもtはせいぜい50 μmで、Iは10 mAくらいだろう。観測したいホール抵抗率に対してホール電圧Vyはどれくらいか?測定系のノイズレベルはどれくらいか?検討してみよう。


ホール係数(RH):

ホール抵抗率が印加磁場(B)に関して線形だとすると比例係数(RH)を使って

(ρyx=RHB)

と書ける。キャリアは正なら正孔的、負なら電子的である。符号に注意しよう。これはxyz座標を右手系でとる限り必ずこうなる。単位はcm3/Cが多い。Ohmcm/T = Ohm cm m2/V/s = 104 cm3/C。

仮に1 Tで1 μOhm cmのホール抵抗率なら、RH=102 cm3/C。

ホール効果は磁場に関して線形とは限らないが、ゼロ磁場付近の傾きを取るとか、線形になっている部分をある程度恣意的に選んで見積もられることが多い。いい加減だなあ。


キャリア密度(n):

単バンド球形フェルミ面を持つ系のキャリア密度はRH=±1enから見積もれて、

n=1e|RH|

である。RHが大きいほどnは小さく見積もられる。単位はcm3が多い。

RH=102 cm3/Cならn6.2×1020 cm3

もちろん一般に物質はマルチバンドである。理論的には強磁場極限でこの見積もり方でもトータルのキャリア密度を見積もれることになっているが、現実的ではないし、検証がどれくらいされているのか不明。ゼロ磁場極限でのホール係数からキャリア密度を見積もる場合、各キャリアの移動度で加重平均を取っていることになる。

もっとも簡単な2キャリア系におけるゼロ磁場近傍のホール係数は以下のようになる。

RH2=ρyxB=1enhμ2hneμ2e(nhμh+neμe)2

ne/hは電子・正孔のキャリア密度、μe/hはそれぞれの移動度である。仮に正孔のみだった場合、正しく符号が正になることを確認しよう。

この式からそれぞれのキャリア密度と移動度の大小によってホール係数は正にも負にもなれることが分かる。とある論文でホール係数がドープによって変化したからキャリア密度が変わったのだという粗い議論をしているのを見たことがあるがとんでもなくいい加減な解析である(その方が彼らの主張にとって都合がよかったからというのは言うまでもない)。ドープによってキャリアが注入されなくてもそれが特定のキャリアの移動度に強く影響を与えるならホール係数の符号は変化してしまう(doi.org/10.1007/BF01320170)。ホール係数からキャリア密度を見積もる際の妄信は禁物である。


移動度(μ):

ドルーデ理論によりゼロ磁場の抵抗率ρ0

ρ10=σ=enμ=ne2τ/meff

で与えられる。ここでσは伝導率、meffはキャリアの有効質量、τは散乱時間である。

移動度μ

μ=eτmeff

で定義されているが、τなどがわからないと見積もれない。単位はcm2/(Vs)が採用されることが多い。1000 cm2/(Vs)を超えないと話にならない。

抵抗が良いとは抵抗が低いことを指す表現で、この式に従うなら移動度が高いほど、キャリア密度が高いほど、抵抗が良いといえる。移動度は散乱時間が長いほど、有効質量が軽いほど高い。キャリア当たりの流れやすさといった感覚と合致する。

ちょうど磁束密度の逆数になっており、例えば1000 cm2/(Vs) =110 T1。量子効果が見え始める磁場に対応しており、量子振動を見るにはB>μ1ぐらいが必要(と期待される)。まず抵抗とホールを測ってみて、下記のように移動度を見積もり、どれくらいの磁場が必要か(おうちラボでせいぜい10 T)、ときには強磁場実験(30 T以上)を検討しなければいけないかを知っておくことができる。ただし本当に量子振動をするかは実際測ってみるまでわからない。

ホール測定でキャリア密度nが見積もられていれば上式から移動度が

μH=1/(eρ0n)=|RH|/ρ0

と見積もられ、いわゆるホール移動度と呼ばれている。

仮にρ0=5 μOhm cm、n=6.2×1020 cm3ならμH=2000 cm2/(Vs)となる。マルチキャリアであることを考慮していないので平均値を求めているような格好になる。ホール効果が磁場に関して線形であることを前提にしているので、非線形性が出るようなら2バンドモデルなどを試みよう。

ホール効果を測らなくても磁気抵抗だけから移動度を見積もることができる。磁場中の抵抗とゼロ磁場抵抗の差をゼロ磁場抵抗で比を取ったものを磁気抵抗率(MR)と呼ぶ。

MR=(ρ(B)ρ0)/ρ0=Δρ/ρ0

半古典理論で伝導率(σ)を書くと

σ(B)=enμ1+(μB)2

なので、ホール効果は無視できるとしてρ=σ1から

MR=(μB)2

である。このとき、シングルバンド系の半古典理論をまじめに考えると磁気抵抗は出ない(!?)という結論に至ることは無視する。なぜなら実際磁気抵抗は出るからだ。一方で、実際測ってみるとMRはB2からかなりずれることが多い。それも無視して無理やりフィットするとμが求まる。ホール移動度と一致しないことも多いので区別するためにμMRと書いたりする。


フェルミ波数(kF):

球状のフェルミ面の場合、フェルミ球の半径kFはキャリア密度nであらわせる。スピン自由度を考慮して

n=28π34π3k3F=k3F3π2

よって、kF=33π2nとなる。ここでホール効果で見積もったキャリア密度を無理やり入れればフェルミ波数が見積もれる。単位はÅ1やnm1。キャリア密度が低いほどフェルミ波数も小さい。もちろんフェルミ面は単純な球とは限らないので、この見積もりで分かるのはフェルミ面の運動量空間での大きさのおおよその値である。ブリルアンゾーンの大きさは格子定数から簡単に見積もれるのでそれと比べたりできそう。


有効質量(meff):

これは電子比熱γとフェルミ波数(kF)から見積もれる。

D(EF)=nEF=kFmeff2π2

meff=32γk2BkF

ここでγの単位はmolで測ったものではなく単位体積を使って、J K2 m3に換算する。たとえばf.u. 1 molあたりの比熱からγを見積もっているならf.u.あたりの体積を見積もってからスケールする必要がある。比熱測定は低温で行われるので、単位胞の体積を見積もるには低温での格子定数が必要だが、格子定数の室温からの収縮は無視して(せいぜい0.5%)、室温XRD測定で見積もっても精度としては十分である。電子比熱が大きいほど有効質量は大きい。マルチキャリアの効果は考慮されていない。


フェルミエネルギー(EF)

フェルミ波数kFと有効質量meffの見積もりがあれば、フェルミエネルギーが見積もれる。これはつまり、電子比熱γとキャリア密度nからフェルミエネルギーを見積もれるということである。

EF=22meff(3π2n)2/3=π2k2Bn2γ=3n2D(EF)

ここでn [f.u.1]とD(EF) [eV1 f.u.1]の単位に注意しよう。状態密度の単位に合わせるためにnはf.u.の体積に合わせてスケールする必要がある。

当然マルチバンドであることは考慮されていない。下記にあるように量子振動で各フェルミ面の大きさと有効質量が見積もれれば各バンドのフェルミエネルギー(?)なるものが見積もれる。注目しているバンドだけを抜き出してきて有効モデルを作るときとかに使えそう。

またフェルミエネルギーからフェルミ温度kBTF=EFを見積もっておくと、測定している温度領域に対して電子がどれくらい縮退しているかを見積もれてよい。フェルミ・ディラック分布をデルタ関数として扱う近似は(1(T/TF)2)のオーダーでずれるので、仮にEF=100 meVくらいだとしたらTF=1000 K。T=2 Kで十分だがT=300 Kではだいぶ良くない。フェルミエネルギーが温度に比べて十分高ければ熱電能の見積もりにも使える場合がある(下記参照)。

フェルミエネルギーが必要になるもう一つの場面は異常ホール効果の外因性・内因性クロスオーバーである。Onoda-Sugimoto-Nagaosa論文(doi.org/10.1103/PhysRevB.77.165103)によるとEFτ/>π/2でdirty領域から内因性領域へ移行し、EFτ/>100から内因性領域から外因性領域への移行が起きるように見える。多くの論文ではこの因子を見積もることはやられておらず、縦の伝導率σxxに書き換えるということがなされる。典型的な物質でEFτ/による見積りと伝導率による見積りのスケールがそこまで変わらないからよしとされているようであるが、いずれにしろ大雑把な話である。仮に縦伝導率の式から無理やりEFτ/を抜き出して来ようとすると以下のようになる。

σxx=(83π2)2/3e2n1/3EFτ

キャリア密度あるいはフェルミ波数が分かっていればEFτ/π/2100を入れてみれば対象となる物質の異常ホール効果の外因性・内因性クロスオーバーの領域が見積もれそうである。実際ここまでやって議論している論文は見たことがない。仮に格子定数aを使ってn1/31/aと置き換えると表式がnによらなく、aは物質によってそんなに変わらないので、σxxについてのスケーリングととらえることができる。もともとが2次元の理論なので3次元物質に適用するときに恣意性が入り込みそうだ。


散乱時間(τ):

有効質量meffと移動度μがあれば

τ=μmeff/e

から見積もれる。単位はs。

μ=1000 cm2/(Vs)で有効質量をmeとすると、τ=5.7×1013 sである。これは電子がkからkに散乱される時間というわけではなく、輸送にかかわるキャリアの寿命を測っている。つまりkkの間の角をθとし、散乱断面積をdσ/dΩとすると、

1/τ=vFπ0dσdΩ(1cosθ)dΩ

である。Dingle温度TDをつかって

/τq=kBTD

によって求められる量子緩和時間τqとの違いに注意しよう。


フェルミ速度(vF)

有効質量meffとフェルミ波数kFがあれば

vF=kFmeff

から見積もることができる。これは何に使うのかよくわからない。


平均自由行程(lmfp)

フェルミ速度vFと散乱時間τがあれば

lmfp=vFτ=kFτmeff

から見積もることができる。単位はnm。これが格子定数(~0.5 nm)や系の典型的な長さスケール(試料寸法(~ 0.1 mm)やSDW, CDWなどの長周期構造(~10-100 nm))と比べて十分長いとより散乱されにくいとみなせる。

上記の式だと有効質量単体を見積もらないといけないように見える。つまり比熱を測定しないといけないと考えてしまうかもしれない。しかし散乱時間と有効質量をまとめると移動度になる。移動度はホール移動度を使うならホール係数とゼロ磁場抵抗率から見積もれる。フェルミ波数はキャリア密度、つまりホール係数から見積もれる。以上より、

lmfp=kFeeτmeff=kFeμH=33π2ne|RH|ρ0=(3π2)1/3e4/3R2/3Hρ0

となり、抵抗・ホール測定のデータだけから平均自由行程は見積もれる。e4/3が気色悪いが、R2/3HからC2/3が来てくれるので安心してほしい。なんだか何でもできそうになってきた。


量子振動

フェルミ面の断面積と振動数:

量子振動の周波数Fは単位Tの量である。これは磁場に垂直な面でフェルミ面の断面を取ったときの断面積の極大・極小値(A)と関係している。

A=2πeF

Aの単位はÅ2が多い。

断面が真円だとするとするとフェルミ波数kFが見積もれる。

kF=A/π

単位はÅ1になる。真円でなくてもこの式を当てはめて大体のフェルミ波数を見積もることができる。これは各バンドの対して見積もれるので、抵抗測定のみから見積もったのより精度が向上している。ただし、フェルミ面の極値が知れるだけなので、もっと詳しい情報を得るためには磁場をいろいろな方向にかけたりする必要がある。


有効質量(meff)

量子振動の振幅(RT)を各温度で測り、リフシッツ・コセヴィッチの式から有効質量を見積もることができる。これはサイクロトロン有効質量で、バンドのフェルミエネルギー近傍の分散に直接関係している。

RTX/sinhX

ここでX=2π2kBmeffT/eˉBで、ˉBに関しては振動を測定した磁場の範囲 [Bl, Bh] を逆数平均したものを使う。つまり1/ˉB=1/2(1/Bh+1/Bl)。これはこれで見積もる有効質量に誤差を与える要因となる。抵抗測定では単バンドモデルで近似して有効質量を見積もるが、量子振動では各バンドのそれぞれの有効質量を見積もれる。

当然だが振動が観測できないバンドの見積もりはできない。そこで、電子比熱とフェルミ波数から有効質量を見積もったのとは逆の計算を行い、量子振動で観測できているバンドの有効質量とフェルミ波数から各バンドの電子比熱への寄与を見積もる。それらを使い、比熱測定により直接得られた電子比熱から差っ引くことで観測できていないバンドの電子比熱(状態密度)を知ることができる。ホール測定からキャリア密度が分かっているなら、そこから量子振動が観測されたバンドのキャリア密度(各フェルミ波数から概算)を差っ引くことで残りのキャリア密度も知れるので、振動が観測できていないバンドの有効質量も見積もれる(?)。


フェルミ速度(vF):

有効質量とフェルミ波数からフェルミ速度が求まる。つまり

vF=kFmeff

ARPESで観測したバンド分散と比べるときに使えそうだ。


熱電能

ゼーベック効果:

伝導体において温度勾配をかけたときに縦方向に電場が発生する現象をゼーベック効果という。ゼーベック係数(S)とは

Ex=S(T/x)

で定義されるので、これは直接測定することができる。一方で単バンドモデルで電子比熱とキャリア密度で見積もることもできる。

S/T=±π23k2Be1EF=±23γen

ここでは前の係数をπ23としたが散乱メカニズムによっていろいろありうる(doi.org/10.1088/0953-8984/16/28/037)。また符号は正孔か電子かによって変わる。モデルの観点では上式はフェルミ温度より十分低温なら温度によらない定数である。一方でホール測定で求めたキャリア密度は温度に関して一定とは限らない。これはマルチバンドの効果とか、緩和時間のフェルミ面効果とかの影響のためである。また一般にSTに比例するとは限らないし、フォノンドラッグなどもあるので上式左辺の量を測定しても温度に関する定数にはならないことが多い。とはいえ、式の両辺ともに測定出来てしまうわけで、比熱とホール測定で見積もられた値と直接測定で観測されたゼーベック係数がどれくらい一致するのかは確認しておくのがよいだろう。仮に一致すればゼーベック効果が出ている原因を大まかには理解できたことにすればいいし、大きくずれているなら何らかの妄想メカニズムをこねくり回して議論をもりもりしていけばいい。

マルチキャリアの場合、ゼーベック係数は伝導率を考慮した加重平均になる。

S=σhSh+σeSeσh+σe

もし量子振動などでフェルミ面の形状が分かっており、各バンドのne/hγe/hが別々に見積もれるなら、もしくは要するに各バンドのフェルミエネルギー(EF,e/h=2k2F2meff)が見積もれるなら、各バンドのゼーベック係数は見積もれて

Se/h/T=23γe/hene/h=π23k2Be1EF,e/h

となる。符号は電子にはマイナス、正孔にはプラスを割り当てておけばいいだろう。電気抵抗測定で2バンド解析をすればσe/hも別個に見積もれるのでSが見積もれる(?)。

有効質量が重いキャリアは伝導率が小さくなりやすく、ゼーベック係数は大きくなりやすい。有効質量が軽いと逆になることが分かる。正孔的なバンドは正、電子的なバンドは負の寄与をするので、それぞれのバンドの有効質量の軽重によってトータルのゼーベック効果は正負両方をとれそうである。バンドが異方的であれば有効質量も異方的になるのでゼーベック効果も異方的になる。結晶のある軸方向で測ると正のシグナルが出ていたものが別の方向を測ると負のシグナルになることも容易に想像できる(goniopolarityという)。


磁性

有効ボーア磁子(peff)

磁性を調べようとした場合、まず測定するのが磁化率の温度依存性である。磁気転移点より高温の磁化率(χ)はキュリー・ワイス則に従って、

χ=CTΘW

と書ける。単位はemu mol1などというわけの分からないものを使う。Cはキュリー定数、ΘWはワイス温度。ここでもmolの意味が不明確になる。f.u.あたりに磁性イオンが複数あったらその量だけ大きくなる(たとえばCr2O3ならf.u.あたりCrが2つある)。仮に一種類の磁性イオンなら1イオンあたりの量(emu/Cr)で計算することもある。測定でデータとして出てくる量はemuなので試料の重さw [g]とf.u.あたりの分子量q [g/mol]を使ってemu/molにする。

単結晶の場合、異方性があるのでCΘWは磁場をかけた方向に依存した異方的な量になる。

ここからは磁性イオンがf.u.あたり1種類、1個であるとする。等方的であると仮定すると、磁場の方向によらず、

C=NAg2Jμ2BJ(J+1)/3kB

と書けて、

イジング異方性があるとすると、磁場が容易軸方向にかかっているとして、

CIsing=NAg2Jμ2BJ2/kB

と書ける。ここでgJはランデのg因子、Jは全角運動量量子数(軌道がクエンチしている場合はスピン量子数Sのこと)である。

ここから有効磁気モーメントpeff

peff=gJJ(J+1)=3kB10CNAμ2B=8C

イジングスピンの場合は

pIsing=gJJ=kB10CNAμ2B

となる。単位はμBである。Cの前の10はcgs単位系で測られたCをつかってSI単位系のボーア磁子で測ったpeffを見積もるために必要である。こういうのは本当にやめてほしい。

磁性体中の磁性イオンがどれくらいのJgJを持つかについて見当がつくなら、磁化率の測定値から見積もったpeffと比べることができる。ぴったりになることは少ないが、大体あっていればよしとする世界である。


磁化(M)

これはボーア磁子あたりの量に換算されることが多い。emuで出てきた磁気モーメント量mをf.u.あたりの量にしてからボーア磁子で割ることで得られる。

M[μB/f.u.] =mq/w/(1000NAμB)=mq/w1.79×104

因子1000はcgsとSIの変換から来る量である。一体どういうことだ?仮にCr3+ (S=3/2)の物質を測っているとするとCrあたりM=3μBくらい出て、f.u.あたり2つあると6μBになったりする具合である。


反磁場(HD)

大きな磁気モーメントが生じる物質では磁気モーメントと反対方向に反磁場が生じる。反磁場が大きいと試料の形状によって磁化過程が変わってしまうため、異なる形状の試料で測った物理量を比べる場合には反磁場の効果を補正しなければならない。
反磁場は磁化に比例するので、単に磁化測定をしてその値を使えばいい。ただし磁場の単位をOeやGで測っているなら反磁場を見積もるには得られた磁化(μB/f.u.)もこの単位に変換する必要がある。反磁場係数NDのとき、M [emu/mol]の磁化が出ているときの反磁場は
HD [G] =4πNDMρ/q
である。ここでρは密度 [g/cm3]、qは分子量 [g/mol]である。密度は単位胞の寸法とその中にある原子の総質量から見積もれる。反磁場係数は試料の形状にもとづいて別途見積もる必要がある。平板状試料の面直方向なら1に近く、針状試料の軸方向なら0に近い。
この式からわかるとおり、密度が小さい物質はMが大きくても反磁場は小さい。磁気モーメントの分布がスカスカだと単位体積当たりの量では小さくなるからだ。GdやFeの単体は大きな反磁場を示すが、酸化物とかだと大きなイオン半径の酸素が磁気モーメントの密度を薄めてしまうので反磁場は小さいことが予想できる。このことから希土類元素の濃厚な希土類金属間化合物やそもそも単体などでは反磁場の効果が大きくなる傾向にあり、酸化物などではあまり気にしなくてよい場合が多い。

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