28. Field-free superconducting diode effect in layered superconductor
FeSe, arxiv.org/abs/2409.01715
(2024).
超伝導ダイオードが時間反転の破れがなくても出ると言っているようだ。超伝導はエアプなのでこの話題はあまりよくわからない。想定外のアーティファクトなのだとしたら重要な指摘だ(真顔)。これまでの先行研究を再検証する必要を感じるのでメシがうまい。(ジュール熱の効果はこの手の現象においていの一番に考えることなので先行研究で考慮されてないなんてことはないはずなんだがダクター?)
サンプルがくさびのような形だと接触抵抗やらジュール熱の緩和の非対称性やらで温度勾配ができてしまって、熱電効果によって生じる電流ithなるものの効果を考えないといけない。この余分な電流はサンプルの形状などによって決まるので常に同じ方向に流れている。すると外からかけている電流Iextがithに平行なら実際より余分に電流密度があることになり超伝導は壊れやすく、反平行なら逆になる。こうして非相反性が生まれる。
現象論的にはそういわれると確かにありそうだが、基板や電極に貼り付けられた微小サンプルに実際温度勾配がどれくらいつくものなのかはっきりしない。それが観測にかかるほどの効果を生み出すのか非自明だと思う。またithにくみするキャリアはどこから供給されてどこにドレインされるんだろうか?電流計をつないで定電流モードで測っているんだからIext+Ithは常に一定になるのではないのか?だとしたら電流の総量が流す向きによって異なるなんてことにはならなそうに思う。
ちゃんと読めばわかるのかもしれないが、いかんせんp5-7にまたがる巨大な1段落が長すぎて読む気が起きない。ポストモダン小説の趣きといえなくもない。メシがうまいからまあいいか。
似た議論がPRBにアクセプト済みだ(arxiv.org/abs/2502.08928)。反論とかも出てこないか楽しみだ。
27. Absence of Nematic Instability and Dominant Response in the Kagome
Metal CsV3Sb5, doi.org/10.1103/PhysRevX.14.031015
(2024).
Nat. Phys.の論文(doi.org/10.1038/s41567-023-02272-4)におけるCsV3Sb5のelastoresistive
effectの解析が間違っていることを明らかにした論文。かなしいなあ。
modified
Montgomery法ではResistanceからResistivityに換算しないと異方的抵抗率の正しいふるまいを理解することはできない。これはRxxとρxxの関係が線形でないことから引き起こされる。引用文献にも上げているmodified
Montgomery法の提案をしている論文(doi.org/10.1063/1.3652905)を読めば自明なのでなぜ気づかないのかは不明。
modified Montgomery論文(doi.org/10.1063/1.3652905)とオリジナルのMontgomery論文(doi.org/10.1063/1.1660656)の違いは原理的には皆無である。ただしオリジナル論文は結局何を計算すればいいのか?という誰もが期待する情報を書かないという意味不明な方針で論文が書かれている。modifiedの方は解析的な式と近似式を明示的に示しており、実践的な価値がある。
解析のアイディア:等方的な媒質の直方体試料を考えて、抵抗率をρ、試料の寸法をL1×L2×L3とする。1つの長方形の面(L1×L2のを選ぼう)の角ABCDのABに電流を流し、CDの電圧を測ることで抵抗R1(=VCD/IAB)を求め、同様にBCに電流を流しながらADの電圧を測ることで抵抗R2(=VAD/IBC)を求める。
抵抗率ρとR1, R2はとあるパラメータHi (i=1,2),
E を使って
ρ=H1ER1=H2ER2
と書ける(doi.org/10.1063/1.1660657)。ここで
H−11=4/π∑∞n=02/[(2n+1)sinh[π(2n+1)L2/L1]]
H−12=4/π∑∞n=02/[(2n+1)sinh[π(2n+1)L1/L2]]
で試料の形状の特にL1,L2のみで決まる。抵抗の異方性や形状の異方性が大きくない場合、良い近似として
H1∼(π/8)sinh[πL2/L1]
H2∼(π/8)sinh[πL1/L2]
が使われる。
またEもLi
(i=1,2,3)で決まる量である。とくに平板状の試料でL3/(L1L2)1/2<0.5が成り立つくらいL3が薄ければE/L3∼1とおける。
上記近似の範囲で抵抗率は
ρ=π8L3R1sinh[πL2/L1]=π8L3R2sinh[πL1/L2]
と書ける。
ここで今度は異方的な結晶で抵抗率テンソルが対角項のみ(ˆρ=diag[ρ1,ρ2,ρ3])であらわされ、直方体の寸法がL′1×L′2×L′3である試料を考えよう。この試料をMontgomery法で測定したものは実効的に等方的抵抗率ρ(=(ρ1ρ2ρ3)1/3)の寸法がLi(=L′i(ρi/ρ)1/2)
(i=1,2,3)である試料と等価になる(Wasscher変換, Philips Res. Repts.
16 301-306, 1961, doi無し)。
このことから上記のρに関する式は有効等方試料の抵抗率とみなすことができて、元の異方的試料の抵抗率に戻してやることができて
ρ1=(π/8)E′(L′2/L′1)(L1/L2)R1sinh[πL2/L1]
ρ2=(π/8)E′(L′1/L′2)(L2/L1)R2sinh[πL1/L2]
となる。ここでL2/L1は
L2L1≃12[1πlnR2R1+√[1πlnR2R1]2+4]
と近似される。ただし、常にR2/R1>1とする(導出にはそう書かれているが実際この制限は必要ない.下記参照)。ここでρ1がR1に対して線形でないと気づく。
また有効的な試料厚さは
E′=E(L′3/L3)
で与えられ、E′=L′3と置けるのはE/L3∼1と置けるときであることが分かる。それを検証するには上記のようにL3/(L1L2)1/2を見積もる必要があり、
L3/(L1L2)1/2=(L3/L2)(L2/L1)1/2=L′3/L′2(ρ3/ρ2)1/2(L2/L1)1/2
と置けるので、面内vs.面直の抵抗率の比が分かっているとよさそうだ。つまり標準的な4端子法でいいので、面直抵抗率ρ3を測っておく必要がある。単に試料形状が平板状であればいいというわけではないことがちょっとした落とし穴で、系の二次元性が高く、ρ3/ρ1>100とかになる物質もあるので注意が必要な場合もある。ただし、E′はρ1,ρ2のどちらにも同じように入っているので、面内の抵抗率の異方性の議論には影響しない。
測定の手順としては試料の寸法(L′1,L′2,L′3)を測り、Montgomery法で抵抗R1,R2を測り、L1/L2を見積もればその逆数からL2/L1が計算できるので、抵抗率ρi,ρjが見積もれるというわけである。技術的な注意点としては試料をちゃんと直方体に整形すること、電極をコーナーの点極限になるようにできるだけ小さくつけることであろう。
ここでL2/L1とR2/R1を結びつける近似式について補足する。論文中の導出ではR2/R1>1という制限があると記述されているが(doi.org/10.1063/1.3652905, Eq.
(13)の直後)、実際は当該式はR2/R1<1でも成り立っている。実際に確かめてみよう。1πlnR2R1=xと置いて、
L2/L1=12[x+√x2+4]
と書ける。一方、
L1/L2=12[−x+√x2+4]
これの逆数を取って
(L1/L2)−1=2[−x+√x2+4]=12[x+√x2+4]
これは正確にL2/L1に等しい。論文中の制限は不必要である。
追記:最近気づいたが、この手法はある条件下では間違った解釈を生み出してしまいかねない。適用できない条件下でむやみに公式を当てはめて議論するいわゆる”おバカ解析”の罠が潜んでいる。いつかそういう論文を見かけたら書いてみよう。
26. Unraveling effects of competing interactions and frustration
in vdW ferromagnetic Fe3GeTe2 nanoflake devices, arxiv.org/abs/2502.05018
(2025).
トポロジカルホール効果に関する”おバカ解析”の典型である。磁化容易軸とは垂直な面内に磁場をかけてホール応答が非自明だ云々と無意味な議論をしている。
異常ホール効果はxy平面に垂直な磁化に比例するものなので、面内に磁場をかければ磁化が傾いていき、低磁場で有限であったものがだんだん減少していき、高磁場極限でゼロになる。磁化に比例しないふるまいになるのは当たり前である。
25. Anomalous Nernst effect of Fe3O4 single crystal, doi.org/10.1103/PhysRevB.90.054422
(2014).
ネルンスト係数の符号の混乱の原因を作った論文の一つ。これより古い文献があれば教えてほしい。
熱電効果を議論しようとするとき、熱電テンソル(ˆS)を使って
→E=ˆS→∇T
と置くのがよいだろう。x軸方向の温度勾配に対して平行に生じる電場は普通のゼーベック効果で
Ex=Sxx∂T∂x
となり、自然に従来の定義とつながる(たしかゼーベック自身かモットあたりがこう定義したんだったはず)。
この場合、x軸方向の温度勾配に対するy軸方向の電場はネルンスト効果に対応する。そうであるならば
Ey=Syx∂T∂x
と書いてSyxという表記でネルンスト係数とするのが自然だろう。(輸送現象のテンソル方程式はEi=Sij∇jTとするのが自然。)ところが当該論文では何を考えたのか
Ey=Sxy∂T∂x
と表記してSxyをネルンスト係数と定義してしまったのである。このため、これを何も考えずに踏襲してネルンスト係数を議論する派閥とテンソルの定義として自然なSyx(=−Sxy)をネルンスト係数として議論する派閥が分かれてしまった。このため両者同じ係数を測っているはずなのに表記上は符号が真逆になることになる。同じようなことはホール抵抗率でも起きている(別ブログ参照)。そのため各文献で定義がまちまちで係数の符号の整合性が取れない原因になっている。異常ネルンスト効果の符号が違う材料を接合して熱電材料を作ろうとしている人たちはこんな状況でちゃんとやれているのか?
引用文献として挙げられているdoi.org/10.1103/PhysRevLett.99.086602やdoi.org/10.7567/APEX.6.033003ではちゃんと定義できている。要するに書き写す輩が阿呆なのだろう。
24. Characterization of Lorenz number with Seebeck coefficient
measurement, doi.org/10.1063/1.4908244
(2015).
える しっているか?ローレンツ数(L=κ/σT)はゼーベック係数(S)で与えられる。
L=1.5+exp(−|S|/116)
おいおい冗談だろ。
23. Weighted Mobility, doi.org/10.1002/adma.202001537
(2020).
モビリティでよく知られているのはホールモビリティ(μH)でμH=σRHで与えられる。ここでσ,RHは伝導率とホール係数。モビリティが1 cm2 V−1
s−1より大きいときに使われる。一方でモビリティが小さいとき、抵抗率とゼーベック係数(|S|)からモビリティを見積もるweighted
mobility (μw)を提案している。式て書くと
μw=3ℏ3σ8πe(2mekBT)3/2[e|ˆS|−21+e−5(|ˆS|−1)+3π2|ˆS|1+e5(|ˆS|−1)]
で与えられる。ここで|ˆS|=|S|⋅e/kB。おいおい冗談だろ。
22. Room-temperature unconventional topological Hall effect in a van der
Waals ferromagnet Fe3GaTe2, doi.org/10.1063/5.0245797
(2025)
トポロジカルホール効果に関する”おバカ解析”の典型である。磁化容易軸とは垂直な面内に磁場をかけてホール応答が磁化に比例しないという無意味な議論をしている。
21.
これは面白そうな物質だ。だれにもいわんとこ
20. NiSi: A New Venue for Antiferromagnetic Spintronics, doi.org/10.1002/adma.202302120
(2023).
Altermagnet候補のNiSiのトランスポートの研究である。Fig. 4(a)がHall
resistivity
(Rxy)にもかかわらず磁場に関して対称なふるまいをしていて意味をなしていない。Supplementaryを読んだりするとわかるが、Hall
conductivityの表式も間違っているし、van der
Pauw法の記述も原理を理解しているか怪しい。ひょっとして専門家ではない?某研に横取りされないか心配だ。
ちなみにD. K. Singh et al.の論文(doi.org/10.1002/apxr.202400170)で紹介されているがarXiv版(2402.17451)から引用が一つずれているため、誰もたどり着けるものはいない。
19. Peculiar Magnetic and Magneto-Transport Properties in a
Noncentrosymmetric Self-Intercalated van der Waals Ferromagnet
Cr5Te8, doi.org/10.1021/acs.chemmater.4c02996
(2025).
トポロジカルホール効果の発現を主張しているが、ホール抵抗率と異常ホール効果によるフィットを見ると両者の一致は極めてよく、測定誤差と区別がつかないほんのわずかなずれがあることを拡大してトポロジカルホール効果を主張するのは無理がある。
18. Spin-Triplet Excitonic Insulator in the Ultra-Quantum Limit of
HfTe5,
arxiv.org/abs/2501.12572
(2025).
ホール伝導度の見積もりが誤っている。正しくは
σxy=ρyx/(ρ2xx+ρ2yx)
よってプロットの符号は正負逆転する。電子・正孔の割り当ても反転する。論文の結論に壊滅的な打撃を与えるかは不明。逆行列の計算くらいできないものか。
同様の間違いをしている論文:
arxiv.org/abs/2308.09695, doi.org/10.1002/adfm.202424841,
上記論文ではこの論文(doi.org/10.1103/PhysRevX.8.041045)が引用されていて、ここでは正しい数式が使われている。要するに書き写す輩が阿呆なのである。
17. Origin of the turn-on temperature behavior in WTe2, doi.org/10.1103/PhysRevB.92.180402
(2015).
いわゆる逆オッカムの剃刀を使った解釈の筆頭として、XMR物質の磁気抵抗曲線を金属絶縁体転移とする主張があげられる(doi.org/10.1038/nphys3581)。これを思考停止で真似をして、抵抗-温度曲線をギャップ関数ρ∝exp(Eg/kBT)でフィットしてギャップEgを見積もるという"おバカ解析"をする論文が後を絶たず、トポロジカルホール解析と並んで分野の腐敗を象徴していると誰かが言っていた。表題論文他、マルチバンドなどのconventionalな枠組みで説明する試みをメモしておくことで、おバカ解析をしてくる論文を査読するときに備えよう(今現在査読をしている論文とは一切関係がないことはここに明言しておく)。
LaBi:
doi.org/10.1088/1367-2630/18/8/082002
PtSn4:
doi.org/10.1103/PhysRevB.97.205132
Td-MoTe2: doi.org/10.1103/PhysRevB.96.075132
WTe2: doi.org/10.1103/PhysRevLett.115.046602
Graphite:
doi.org/10.1016/j.ssc.2003.11.037, "we find that a simple two-band transport model can qualitatively
describe the temperature and field dependence, without appealing to a M–I
scaling description."
Bismuth, Graphite: doi.org/10.1103/PhysRevLett.94.166601
一方で金属絶縁体転移を主張したい勢力もいる。マルチバンドに言及せずにおバカ解析をする論文は論外なので除外するとして、マルチバンドの効果も意識しつつ解析を試みている論文には一定の評価をしておいた方が論の防御力をあげられる。
Graphite: doi.org/10.1103/PhysRevLett.87.206401
InBi: doi.org/10.1103/PhysRevB.107.205111
16. Twofold symmetry of c-axis resistivity in topological kagome
superconductor CsV3Sb5 with in-plane rotating magnetic field, doi.org/10.1038/s41467-021-27084-z
(2021).
磁気抵抗の磁場を印加した方向についての依存性から系の対称性を調べている論文。データの解析法、見せ方に関して数学的に正しくないところが散見されるが、結論については問題なさそうだ。同様の奇妙なプロット法は他の論文にもみられる。doi.org/10.1021/acs.jpclett.3c02922
ぱっと見即座に指摘できる誤りは、(1)ホール伝導度σxyの表式が間違っている(正孔と電子の割り当てが逆になる)こと、(2)フーリエ級数展開に関する誤解(θに関するFFTの場合、逆空間の変数はθにならない)があげられる。議論したいことが何かはわかるが、学部数学の初歩的な誤解は情けないと言わざるを得ない。
後者は単斜晶であり、解析がさらにややこしくなる(だとしても輸送物性の初歩である)。たとえば伝導率テンソルを計算したい場合、逆行列をとる抵抗率テンソルの対角項はそもそも等しくないし(ρxx≠ρyy)、非対角項には磁場に関して対称な成分と反対称な成分(ρyx=ρsyx+ρayx)がある。これらをただしく測定して逆行列計算しないと伝導率テンソルにならない。注意しないと解析結果が全滅する可能性もあるが、これは詳しく見ないと判断できなさそう。
15. Anomalous and large topological Hall effects in β-Mn chiral
compound Co6.5Ru1.5Zn8Mn4: electron electron interaction facilitated
quantum interference effect,
doi.org/10.1088/1361-648X/ada59f
(2025).
ホール効果の測定と磁化の測定にもとづいてトポロジカルホール効果の発現を主張している論文である。こういう論文を見たときにチェックすべきは反磁場補正を行っているか?もしくは磁化サンプルと抵抗測定サンプルは同じものを使用しているか?である。どちらも明確な記述がないので判断できない。このことだけでも、そもそも適切にデザインされた研究結果とみなすことはできず、提示されている実験データや解析結果から著者らの主張を認めることはできないと結論せざるを得ない。
さらに奇妙なのは磁化データ(Fig.
1(e))にはヒステリシスがあるのに、ホール抵抗(Fig.
3(a))にはそれがないことである。邪推はしないにしても、両データが同じサンプルで測られたものではない可能性が推測される。また磁化に比例するはずの異常ホール効果の成分は通常磁化データを用いて見積もられるので、当然ヒステリシスがあるべきなのにFig.
3(a)の赤線にはそれがない。一体何のデータを用いて異常ホール効果を見積もったのか不明である。
14. Why is the electrocaloric effect so small in
ferroelectrics?, doi.org/10.1063/1.4950788
(2016).
煽りワロ
13. Domain Wall Resistivity in SrRuO3, doi.org/10.1103/PhysRevLett.84.6090
(2000).
強磁性体のドメイン壁の向きをストライプ状にそろえることができて、それに伴って電流がストライプに平行・垂直どちらに流れるかによって抵抗が異なるようにできる(ということのようだ。本文中の書き方が不十分なので間違ってるかも)。一見すると面内で抵抗の異方性を誘起できるのでネマティック状態になっていることになる。ただし、電子系や単ドメイン状態でネマティックになっているわけではなく、系の不均一性に回転対称性の破れが表れているだけである。
ドメイン配置に関して形状効果が乗りやすい主に薄膜や細線のような系でみられるようだが、バルクで起きないとはいえないので、この実験だけでネマティシティ!と叫んだりすると恥をかくので注意だ(ぱっと探した限りそういう論文はなさそうでとても安心した)。
同様の実験:doi.org/10.1088/0953-8984/13/25/202, doi.org/10.1103/PhysRevLett.85.3962, doi.org/10.1103/PhysRevLett.80.5639, doi.org/10.1103/PhysRevB.67.134436, doi.org/10.1103/PhysRevB.59.11914
12. Giant multicaloric response of bulk Fe49Rh51, doi.org/10.1103/PhysRevB.95.104424
(2017).
マルチ熱量効果として圧力と磁場をかける場合の熱量効果を評価する方法を提案している論文。主張として奇妙なのは、磁化の圧力・温度・磁場依存性のデータだけを使って圧力熱量効果(barocaloric
effect, BCE)を評価できるとしていることである。圧力をかけることで磁化が変化するのはいいとして、体積の情報を一切知ることなしにbarocaloric効果を知ることができるのだろうか?
圧力が0→pと変化したときのエントロピー変化分(H,
Tは固定)として下記が提案されている。
ΔSBCE,wrong=∫p0(∂M∂p)T,H⋅(∂M∂H)−1T,p(∂M∂T)p,Hdp
交差相関物性において、印加した外場(p)に対して非共役な物理量(M)だけを測定して、共役物理量(V)の性質を解明できるだろうか?というよくある疑問である。これは一見するとマクスウェル関係式(∂S∂p=∂V∂T, ∂M∂p=∂V∂H)などを駆使して何とかなるのではないか?とかbarocaloric効果の主要な起源が磁化の変化からくる場合に近似的に成り立つのではないか?とか思えてくる。もしちゃんと証明できれば魅力的かつ実験的にも有用な表式である。しかし直感では明らかに誤っていると思えてならない。
いまいちピンとこない場合はマルチフェロイクスに電場と磁場をかける場合に読み替えてみよう。電場を変化させたときに生じる電気熱量効果(electrocaloric
effect,
ECE)を評価したいときに、磁化の磁場・電場・温度依存性の測定だけで済ませることはできるだろうか?エントロピー変化は下記で得られる。
ΔSECE,wrong=∫E0(∂M∂E)T,H⋅(∂M∂H)−1T,E(∂M∂T)p,EdE
この表式の中に電気分極の情報は一切入っていない。本来電気熱量効果を評価するなら
ΔSECE,correct=∫E0(∂P∂T)E,HdE
となるべきである。両者は果たして同じなのか?なんか変だと思い始めたのではないだろうか?その直感は適切である。
ここで仮に電気磁気結合が全くと言っていいほどない物質を考えてみよう。その場合、∂M∂Eはゼロに近い値になってしまう。上式ΔSECE,wrongが適用できるのであるならばそのような物質において電気熱量効果はゼロになるということになってしまう。いっそのことただの非磁性強誘電体BaTiO3で考えてみよう。上式が正しいならそのような物質で電気熱量効果はゼロになるはずだということになる。もっと踏み込んで、一般に磁気的特性がない物質の電気熱量効果はゼロである。ということになる。そんな理不尽なことはあるまい。
ちゃんとした議論をしたいのなら、本論文で記述されている”導出過程”(AppendixA,
Eq.
(A13)-(A16))に誤りがあることを証明する必要がある。あるいは何らかの妥当な近似の上で成り立つかどうかを吟味する必要がある。結論を言うとΔSECE,wrongの表式はΔSECE,correctを厳密に評価する過程で出てくる項で厳密に相殺することが示せる。つまり、厳密にECEに寄与しないことが示せる(ブログ読者からの要望があれば示そうかな)。論文中のどこが間違っているのかを考えるのは学部熱力学と多変数解析のいい練習問題になるので興味がある人は挑戦してみてほしい。同様の誤りは#9の論文のEq.
(19)にもみられる。また同著者らによる論文(doi.org/10.1016/j.matpr.2015.07.332)のEq. (8)も同様の誤りをしている。
これを使ってbarocaloric効果を評価している論文としてhttps://doi.org/10.1016/j.jre.2024.03.011, https://doi.org/10.1016/j.actamat.2023.119596, doi.org/10.1063/1.5090599,
doi.org/10.1088/1674-1056/ab7da7
上記論文には別パターンとして
ΔSECE,wrong2=∫p0(∂M∂T)p,H=0dp
という式を使用することもある。これはもう意味不明で、エントロピーと次元すらあっていない。本来はもちろん被積分関数内のMをVに置き換えるのが正しい。
どの分野にも間違った解析を(わざとではないにしろ)提案してしまう論文はあって、それを自分で確かめもせずに、あるいは自分でも導出に成功(?)して、その手法をトレースする論文はあるのだなと知れて勉強になる。研究とは人の営みである。いまのところ誤謬の伝染はそれほどでもない。
この誤ったエントロピー公式の問題が厄介なのは同物質を直接法で測定したbarocaloric効果(doi.org/10.1103/PhysRevB.89.214105)とだいたい一致してしまうことにある。これがたまたまなのか、パラメータを合わせたからなのか、計算ミスが隠れているのか、あるいは実際に有意な相関があるためなのかは詳しく見ないとわからない。数理的に間違った公式を使ってたまたま定量的に一致する予言を与えてしまうことはしばしば起きることである。
11. Measurement of the Hall coefficient using van der Pauw method
without magnetic field reversal, doi.org/10.1063/1.1140990
(1989).
磁場反転なしにホール効果を測る方法。ほんとか?
10. Upper bounds on the magneto-electric susceptibility, doi.org/10.1016/0375-9601(69)90131-5
(1969).
電気磁気効果テンソルの上限について。Brown et al., (1968) (doi.org/10.1103/PhysRev.168.574)が嚆矢だが似たような文献を見つけたので貼っておく。
Upper bounds for material coefficients, E. Ascher (doi.org/10.1016/0375-9601(73)90057-1)
Pyroelectricity: microscopic estimates and upper bounds, P J Grout
(doi.org/10.1088/0022-3719/8/13/026)
Relativistic Symmetries and Lower Bounds for the Magneto-Electric
Susceptibility and the Ratio of Polarization to Magnetization in a
Ferromagneto-Electric Crystal, E. Ascher (doi.org/10.1002/pssb.2220650227)
9. Thermodynamics of multicaloric effects in
multiferroics, doi.org/10.1080/14786435.2014.899438
(2014).
マルチフェロイクスにおける熱量効果を熱力学的に議論した論文。内容はところどころ厳密な式変形をしていおらず、誤った表式を導出してしまっている。
p1897-1898においてEqs.
(17)-(19)を使って外場y1をゼロに保ったまま別の外場y2を変化させたときにy1に対して共役な秩序変数X1が変化したときの熱量効果を導いている。
Eq.
(18)が式変形の途中で勝手に独立変数をX2からy2に変更していているので厳密には正当化されない式変形である。これを使ってEq.
(19)を導いているので厳密には正しくない。続くEq.
(25)も途中でへんてこな式変形をしていて厳密な導出ではない。正しい変数変換に基づく定式化が必要だがちゃんとやろうと思うとなんだかむずかしいな。
8. A generalized thermodynamic theory of the multicaloric effect
in single-phase solids, doi.org/10.1016/j.ijsolstr.2016.08.015
(2016).
#7関連でVopson (2012)の間違いを指摘したStarkov et
al.がmulticaloricに関して一般論を提唱した論文。これも無謬ではなく、系のエネルギーに関するEq.
(10)が系の対称性を反映していないので適切ではない。特に最後の項αijPiMjはLandau-Ginzburg自由エネルギーの観点から不適切である。正しくは自発分極(Ps)や自発磁化(Ms)からの差分(ΔP=P−Ps, ΔM=M−Ms)を使ってαijΔPiΔMjのような形で入れればよい(実際にE,Hを独立変数とする自由エネルギーをルジャンドル変換してみよう)。
著者らは同様の正しくない議論をほかのところでも行っていて(doi.org/10.1016/j.ijrefrig.2013.08.006)、Eq. (9)にαMPが入ってしまっている。
自由エネルギーがE,Hを独立変数として、αEHのように入っていれば適切である。その場合、αは温度の関数であり、温度や外場の関数である秩序変数(P(T,E,H),M(T,E,H))の関数でもある。もしくは内部エネルギーがP,Mを独立変数としていて、γP2M2のように系のもともとの対称性を保つように導入されていれば適切である。書いててなんだか自信がなくなってきた。
elasto-electric
multicaloricの議論にもミスリーディングところがあるので注意が必要だ。Eq.
(17)は電場をかけたときの熱量効果のように見える表式(dSE)だが、実は境界条件によって電場をかけることで系に11,
22成分のストレスがかかってしまう。そのため実体はマルチ熱量効果であり、圧電係数に関連する項が出てきてしまう。33方向にストレスをかけて電場をかけない条件で生じた熱量効果がdSσで、電場および33方向のストレスを同時にかけたときに出るdSE+σからdSEおよびdSσにプラスされる項がdSEσである。
7. The induced magnetic and electric fields’ paradox
leading to multicaloric effects in multiferroics, doi.org/10.1016/j.ssc.2016.01.021 (2016).
This paper is the published version of the arXiv post (arXiv:1611.06262) by Vopson. It was written in an attempt to respond to the rebuttal
given by Starkov et al. (arXiv:1602.04238).
In arXiv:1602.04238, Starkov et al. refuted the claim made by Vopson in the Solid
State Communications (doi.org/10.1016/j.ssc.2012.08.016) in 2012.
In the paper by Vopson (2016), the author admitted the fallacy of his
argument in Vopson (2012). The author proposed an alternative
formulation to preserve his original claim, but there is still an
incorrect argument that leads to the same false conclusion. He proposed
to introduce the internal field (a fictitious magnetic field)
dHme when applying the electric field to
multiferroics. However, this prescription is unreasonable because
he treated this internal field as an independent variable in the free
energy.
His Eq. (12) for the induced magnetization is as follows
dM=(∂M/∂T)dT+(∂M/∂E)dE+(∂M/∂H)dHapp−(∂M/∂H)dHme
Evidently, the second and the fourth terms on the right are a double
counting since the latter is proportional to the applied electric field.
The induced magnetization due to Hme should already be included
in ∂M/∂E in the second term.
He argued that the dHme is allowed by Newton's 3rd law or
as an extension of Lenz's law. Neither of them makes sense. He also
cited papers by Rado et al. and Agyei et al. (see #6 below) to support
his claim, however none of them does not validate his argument. In
particular, some of the claims in the Agyei et al. paper are completely
incorrect as I pointed out in #6 below.
The claim made in Vopson's original paper (doi.org/10.1016/j.ssc.2012.08.016) is as follows. When applying a magnetic field to multiferroics, the
temperature increase by a caloric effect is given by
ΔTH=−TC⋅∫HfHi[αmϵ0χe⋅(∂P∂T)H,E+(∂M∂T)H,E]⋅dH
αm is the coefficient for the magnetically induced
magneto-electric effect. The first term in the integrand is not
necessary. And thus, this formula overestimates (or underestimates
depending on the sign of αm) the caloric effect in a magnetic
field.
This is because the caloric effect induced by the application of a
magnetic field should be categorized as the magnetocaloric effect.
According to Maxwell's relations, the resulting entropy change or the
corresponding temperature change should be expressed solely in terms of
magnetization. While H-induced electric polarization may also
contribute to the entropy change, its effect should be included within
the temperature dependence of M. Manipulating symbols alone does not
constitute a scientifically meaningful explanation.
6. On the linear magnetoelectric effect,
doi.org/10.1088/0953-8984/2/13/010
線形電気磁気効果は結晶の磁気点群がある条件を満たすときのみ許される効果として知られているが、本論文では常磁性体であってもそれが許される状況がありうることを提案している。
明らかに誤っている結論だが、途中まであっている。間違いはp3012で起きていてる。常磁性強誘電体を静止系(S)でとらえるとx方向に自発分極P(s)が生じていて、自発磁化(M(s))は存在しない。一方y方向に速度Vで進む別の慣性系(S’)にとっては相対論的効果によりM(s)=(V/c)P(s)がz軸方向に生じているように見える(これ自体はAC効果としてみると一見正しい)。すなわちS'系ではこの物質は強磁性強誘電体である。そして強磁性強誘電体は線形ME効果を許す。物理現象はどの慣性系で見ても同じのはずだから、静止系SでもME効果が観測されるはずである。
このように書くとどこに間違いがあるかは明白で、確かにS'系で見ると線形MEは出すのだろうが、それをS系に戻すときにその効果はローレンツ変換で消えてしまう。別の言い方をすると、S’系にとって電場で磁化を誘起している現象はS系では電場で電気分極を誘起したり、磁場で磁化を誘起したりする現象として観測されるはずであり、それは常磁性強誘電体にとって当たり前の応答であるからである。
5. Generalized Onsager’s Relation in Magnon Hall Effect and Its
Implication, arxiv.org/2501.02250
マグノンホールが起きるための条件を考えているようだが読んでてよくわからなくなってしまった。effective
time-reversal
operationとしてT=TCs2xというのを、時間反転Tとスピンだけひっくり返すCs2xで構成している。磁性体だとすでに対称性が破れていて、スピンの向きが決まってしまっているから安易に時間反転するとスピンの向きが異なる別の基底状態にいってしまうのでなんだかよくなさそうというのはなんとなくわかるが...
関連する論文(doi.org/10.1103/PhysRevLett.123.167202)も参照。この論文によると温度勾配∇Tがあるときの熱流jQは
→jQ=αxyˆz×→∇T
と書ける。T=TCs2xを施すとjQは反転して(Tでは反転してCs2xでは熱流はスピンではないので反転しない)、∇Tは反転しない(TでもCs2xでも反転しないので)となる。つまりTCs2xに関して対称な系では熱ホールは出ないという結論になる。これは成り立っているかどうか非自明だと思う。jQが流れているときにスピンだけをひっくり返すという操作が許されるのか自明ではない。もちろん静的状態でそういう対称性があるのはわかるが、温度勾配がある非平衡状態でスピンだけをひっくり返すとはいったい何なのか?サンプル全体をひっくり返すとかならまだわかる。実際の実験中にそうしてもできそうなので。非平衡状態に拡張して議論しても正しいことを暗に仮定していそうだがよく考えるととても奇妙だ。もっとよく考えると正しいのかもしれないが、暫定的に受け入れられないロジックである。識者のコメントを期待。
4. Electron-Electron Scattering in TiS2, doi.org/10.1103/PhysRevLett.35.1786
#1の元ネタとなる実験報告である。抵抗のT2依存が広い温度領域で観測されることはキャリア間の散乱が主要な起源であると言っている。本来金属でT2則が見られるのは遷移金属やBiなどの半金属における十分低温の話で、室温まで見えるのは不思議だなあということらしい。
TiS2はこれまでoff
stoichiometricなサンプルしか測られておらず、本来の抵抗のふるまいが見られなかったが当時stoichiometricなサンプルのデータが報告されるようになって発見されたとのこと。
ざっと調べた感じT2が見られる物質はあまりないようで、ZrSe2などがあるくらいだ(doi.org/10.1143/JPSJ.51.1223)。
3. Anisotropic electrical and thermal magnetotransport in the magnetic
semimetal GdPtBi, doi.org/10.1103/PhysRevB.101.125119
みんなご存じのようにGdPtBiの抵抗の温度依存性は∂ρ∂T<0になる不思議なふるまいだ。それに関するフィッティング曲線を議論している。
ρ(T)=ρ0n0+ATn(T)
とおいて、キャリア密度n(T)に以下のような温度依存性を入れる。
n(T)=n0+N√kBTln2[kBTln(1+eEg/kBT)−Eg]
ビビるくらい実験データを再現していて逆に怪しい。
式の導出は詳細がなく、引用先であるdoi.org/10.1109/ICT.2002.1190262とも微妙に違うので真偽は定かではない。Nは個別のバンドの状態密度、Egは電子バンドの底からフェルミエネルギーまでのエネルギー差、n0は温度に依存しないキャリア密度。
2. On the Origin and the Amplitude of T-Square Resistivity in
Fermi Liquids,
doi.org/10.1002/andp.202100588
ρ∝T2に関するBehniaのレビュー。いろんな理屈があるなあ。
1. Electron-Hole Scattering and the Electrical Resistivity of the
Semimetal TiS2,
doi.org/10.1103/PhysRevLett.37.782
補償された(正孔と電子のキャリア密度が等しい)半金属において抵抗の温度依存性がどうふるまうかの議論。
BZ内の中心か端に小さなキャリアポケットがある状況を考える。その場合運動量を保存するe-e散乱は起こりえないという議論をしている。ポケットがBZ中心にあるときは成り立たない議論だと思う。その場合、同種キャリア間の散乱は無視できて、e-h散乱が主なキャリア間散乱メカニズムになるとしている。伝導率は以下で与えてある。
σ=e2μ[(ne−nh)2nenhmemhτip+(1/me+1/mh)2(11/τeh+1/τip)]
ここでμ=(1/neme+1/nhmh)−1, ne/hはキャリア密度,
me/hは有効質量,
τipは不純物散乱およびフォノン散乱の緩和時間逆数和,
τehは電子-正孔散乱の緩和時間。完全に補償された半金属ではne=nhになることが大事で、抵抗率は
ρ=1ne2(1/τeh+1/τip1/me+1/mh)
フォノン散乱がなくなる十分低温では、1/τeh∝T2によってρ=ρ0+AT2になる。フォノン散乱が効いてくる高温でもT2項はあるのでρ=ρ0+BTには一見従わない。要はρ−T曲線が下凸になるようだ。
Eq. (9)直前のFig. 1はFig. 2のタイポ。
対象物質のTiS2ではstoichiometricなとき、低温から室温までの広い温度領域で抵抗率はT2に従う。
同著者らによる続き:doi.org/10.1103/PhysRevB.19.2394, doi.org/10.1103/PhysRevB.19.6172,
doi.org/10.1088/0305-4608/6/11/002どれもあまり引用されていない。適用できる物質は少ないようだ。特に1つ目の論文では同様の考察のもとHall効果に関する理論モデルを提唱しているがTiS2のHall効果を説明できないとNote
added in proofに記述がある。どうやらすでに死亡した理論のようだ。ただしe-h散乱によるT2抵抗の文脈では理論モデルの一つとして引用されることがたびたびある。
別グループによる適用例:doi.org/10.1103/PhysRevB.38.5134, doi.org/10.1103/PhysRevB.41.3060あまり広く受け入れられているとは言えない。