2026年1月3日土曜日

2026年 勉強になった論文、疑問な論文

今年も引き続き勉強になった論文をメモしておこう。去年のブログはここから。

その他記事:

金属フラックス合成まとめ

物性測定アーティファクトまとめ

なんか物性値プロットまとめ


21. Multiple-qその2

#20の続きで、今度は三角格子系を考えてみよう。

例5.三角格子上のall-in-all-out状態

三角格子の一辺の長さを\(a=1\)として、一つのボンド方向(格子ベクトル)を\(x\)軸に平行にとる。\(q\)をr.l.u.(\(2/\sqrt{3}a\))で測ることとし、\(q=0.5,\mathbf{q}_1=(0,q),\mathbf{q}_2=(-\sqrt{3}q/2,-q/2), \mathbf{q}_3=(\sqrt{3}q/2,-q/2)\)として、 

\(\mathbf{m}_1=(1,0,1),\mathbf{m}_2=(-1/2,\sqrt{3}/2,1),\mathbf{m}_3=(-1/2,-\sqrt{3}/2,1)\),

\(\phi_1=\phi_2=\phi_3=0\)とする。何をやっているかというと、\(q_i\)一つ分としてはボンドに垂直な方向に変調する2副格子共線横波反強磁性磁気構造で、\(c\)軸に関して\(120^{\circ}\)ずつ回した3つの磁気構造を重ね合わせるということである。秩序変数ベクトルが横波でありながら、面内と面直両方に成分をもっていることが重要である。実際の磁気構造は下図で、CoTa\(_3\)S\(_6\)などで実現していると考えられている磁気構造である。4副格子の磁気構造で、1サイトに集めてくるとちょうど正四面体の各頂点を占めるような磁気構造になっている。

例5



ここでcollinearな磁気構造だけを足し合わせているということに注意しよう。それにもかかわらずそれぞれの秩序変数ベクトル\(\mathbf{m}_i\)の向きが異なるので、結果として現れる磁気構造は非共面的になるということである。


例6.higher skyrmion number spin texture

例5で扱った磁気構造はいわゆるスカラースピンカイラリティが系全体の平均でゼロにならないトポロジカルスピン磁気構造といえる(これは例4も同様である)。これは磁気構造が長周期の変調を持っても保たれる性質である。長周期極限の磁気構造を考えてみよう。

\(q=0.1,\mathbf{q}_1=(0,q),\mathbf{q}_2=(-\sqrt{3}q/2,-q/2), \mathbf{q}_3=(\sqrt{3}q/2,-q/2)\)として、 
\(\mathbf{m}_1=(1,0,1),\mathbf{m}_2=(-1/2,\sqrt{3}/2,1),\mathbf{m}_3=(-1/2,-\sqrt{3}/2,1)\),
\(\phi_1=\phi_2=\phi_3=0\)とする。つまり単純に変調の波長を5倍しただけである。

例6


紫色の領域はスピンが面直負の方向を向いていて、橙色の領域は面直正の向きを向いている。前者は渦の周囲を反時計回りに1周するとスピンは時計回りに2周する。後者は反時計回りに1周する。これはそれぞれトポロジカル数+1, +1/2をもつmeronということができて、磁気単位胞で平均すると\(+1+1/2\cdot 2=+2\)になる。つまりトポロジカル数が通常のスキルミオンより大きいテクスチャといえる。

実際の物質ではNiI\(_2\)の中間温度層で実現しているのではないかと提案されている(doi.org/10.1038/s41535-026-00851-1)。またcartographic mappingの分類ではLee conformal tetrahedral projection (https://map-projections.net/single-view/lee-conformal-tetrahedral)と呼ばれるものである。これは地球の球面を正四面体(このとき南極が1つの頂点を占めるようにする)に等角写像し、南極側で切り開いて展開図(正三角形)をつくり、2次元平面にタイリングしたものに相当する。南極に対応する地点において6つの三角形が頂点を共有することになるので、その周りで巻き数2の紫色の領域が実現するわけである(簡単だね)。実際にプリントして工作してみると面白いよ。ちなみに例4の長周期極限はPeirce quincuncial(クウィンカンシャル, https://map-projections.net/single-view/peirce-quincuncial-20w)に相当し、正方形への等角写像である。そして六角形への写像であるAdams world in a hexagon(https://map-projections.net/single-view/adams-world-in-a-hexagon)は三つのサイクロイドとそれらの高調波として面直横波を足せばいい。


20. Multiple-qその1

いつも忘れてしまうのでどうやって書くかを自分で覚えておくためだけにここに書く。2次元面\((x,y)\)内でマルチQ状態をとる磁性体の磁気構造\(\mathbf{m}(\mathbf{r})\)は以下のように書ける。

\(\mathbf{m}(\mathbf{r})=\mathbf{M}_0+\sum_{i=1,2...}\mathbf{m}_i\exp[\text{i}(2\pi\mathbf{q}_i\cdot \mathbf{r}+\phi_i)]+c.c.\)

ここで、第一項はuniformな強磁性成分、第二項は異なる\(\mathbf{q}_i\)ベクトルによって変調した磁化成分で、\(\mathbf{m}_i, \phi_i\)はそれぞれ複素磁化ベクトルと変調の位相である。磁化は実ベクトルなので複素共役(c.c.)を加えている。自明なので\(\mathbf{q}\)と\(\mathbf{m}_i\)はそれぞれ二次元、三次元ベクトルとする。つまり、qの向きは面内に固定だが、秩序変数の場である磁気モーメントは三次元方向が許されている。

例1.正方格子上の2in-2out状態

ちょっと特殊だがまずは正方格子にcommensurateなnoncolliniear-coplanar構造から考える。

\(q=0.25,\mathbf{q}_1=(q,q),\mathbf{q}_2=(q,-q)\)として、 
\(\mathbf{m}_1=(1,-1,0),\mathbf{m}_2=(-1,-1,0)\),
\(\phi_1=\phi_2=\pi/2\)とする。

格子定数は簡単のため1とする。あるいは格子定数\(a\)として\(q\)はreciprocal lattice unit(\(2\pi/a\))で測っていると考える。これは正方格子の対角線方向に変調していて、スピンは横波かつ面内である。Mathematicaで簡単にコードを書くと下記になる。二つの異なる横波の重ね合わせのため、磁気構造はnoncollinear になっている。また周期的に磁化がゼロになる特異点が出る構造になっており、これは\(\phi\)の選び方に依存していて格子点に節ができるからである(\(\phi=n\pi/2\)以外では起きない)。特異点の四方ではスピンが2in-2outの構造をとっているか、左右巻く向きの異なるvortexになるかである。黒い枠線が磁気単位胞を表している。

例1



例2.正方格子上のall-in-all-out状態

例1では横波だったのに対し、縦波を選ぶこともできる。つまり、\(\mathbf{q}_1=(1,1),\mathbf{q}_2=(1,-1)\)で、それ以外は変更しない。

例2




例3.正方格子上の2in-2out状態、その2

例1では格子状に特異点(磁化ゼロの点)ができてしまった。これは対角線方向に磁気変調させたためである。素直にボンド方向に変調させれば鉄系超伝導物質で議論されているhedgehog spin-vortex状態(doi.org/10.1038/s41535-017-0076-x)になる。つまり、

\(q=0.5,\mathbf{q}_1=(q,0),\mathbf{q}_2=(0,q)\)として、 

\(\mathbf{m}_1=(0,1,0),\mathbf{m}_2=(1,0,0)\),

\(\phi_1=\phi_2=0\)とする。特異点はなくなったが、磁気構造としてはcoplanarのままである。

例3


例4.カイラルスピン状態

例1では特異点ができてしまっていたが、位相が異なる面直磁化の横波を足すことで回避することができる。つまり

\(q=0.25,\mathbf{q}_1=(q,q),\mathbf{q}_2=(q,-q)\)として、 
\(\mathbf{m}_1=(1,-1,0),\mathbf{m}_2=(-1,-1,0)\),
\(\phi_1=\phi_2=\pi/2\)とする。これに加えて、

\(\mathbf{q}_3=(2q,0),\mathbf{q}_4=(0,2q)\)として、

\(\mathbf{m}_3=(0,0,1), \mathbf{m}_4=(0,0,1)\),

\(\phi_3=\phi_4=0\)とする。これらはちょうど\(\mathbf{q}_1\pm \mathbf{q}_2\)が\(\mathbf{q}_{3,4}\)に相当していることから高調波成分であるとわかる。青と橙の矢印が面直プラス,マイナス方向を向いており、特異点をなくしている。これは#3で扱った磁気構造である。

例4



19. Energy Band Structure and Electronic Properties of NiAs Type Compounds. II. Antiferromagnetic Manganese Telluride, doi.org/10.1002/pssb.2221040111 (1981).

MnTeの反強磁性状態でのバンドのスピン分裂はずいぶん昔に計算されてるんよ?


18. Orbital magnetization from parallel transport of Bloch states, https://arxiv.org/abs/2512.09051 (2025).

軌道磁化を非相対論的に記述することができるようだ。これを使えばトポロジカルホール効果(これも非共面的な磁気構造において非相対論的に出るホール効果)を説明することもできるのだろう。


17. Higher-order nonlinear anomalous Hall effects induced by Berry curvature multipoles, doi.org/10.1103/PhysRevB.107.115142 (2023).

Berry curvature multipole由来の応答で各磁気点群で発現する主要な項がリストされている。

特にBerry curvature quadrupoleの対称性はpiezomangetismと一緒であることが示されている。

\(\sigma_{\mu\alpha\beta\gamma}^{(3)}\propto \epsilon_{\mu\alpha\delta}Q_{\beta\gamma\delta}\)

で、\(Q_{\alpha\beta\gamma}\)の対称性はpiezomagnetic tensor

\(\chi_{\alpha\beta\gamma}\) (\(M_{\gamma}=\chi_{\alpha\beta\gamma}\sigma_{\alpha\beta}\))と同じである。ホールとして出ることを考えると、例えば\(x=\alpha=\beta=\gamma, \mu=z\)とすると、

\(\sigma_{zxxx}^{(3)}\propto Q_{xxy}\)が許されるようにpiezomagnetizmが出るなら測定可能。


16. Quantum Geometry Induced Nonlinear Transport in Altermagnets, doi.org/10.1103/PhysRevLett.133.106701 (2024).

非線形応答はいろいろな系で研究されているが、altermagnetでは3次の非線形応答が出るらしい。しかも縦と横で起源が異なる(場合もある)のでうれしいようだ。一方反転心がないときや\(\mathcal{PT}\)対称な反強磁性ではBerry curvature dipole, quantum metric dipoleで二次の応答が出る。

伝導率テンソルの方程式は\(j_d^{(3)}=\sigma^{abc;d}E_aE_bE_c\)と書けて、緩和時間\(\tau\)の次数に関して展開した4つの項で書ける。\(k\)積分の中身だけ書くと

\(Drude\propto\partial_{a}\partial_{b}\partial_{c}\partial_{d}\epsilon\),

\(BCQ\propto\partial_{a}\partial_{b}\Omega^{cd}+\partial_{b}\partial_{c}\Omega^{ad}+\partial_{a}\partial_{c}\Omega^{bd}\),

\(QMQ\propto 2(\partial_{a}\partial_{d}G^{bc}+\partial_{b}\partial_{d}G^{ac}+\partial_{c}\partial_{d}G^{ab})-(\partial_{a}\partial_{c}G^{bd}+\partial_{b}\partial_{c}G^{ad}+\partial_{a}\partial_{b}G^{cd})\),

\(AIC\propto G^{ab}\Omega^{cd}+G^{ac}\Omega^{bd}+G^{bc}\Omega^{ad}\)

となる。うんざりするぐらい複雑だ。ここで\(\partial_a\)は\(k\)に関する微分、\(\Omega^{ab}\)はベリー曲率、\(G^{ab}\)は量子計量。

これを見るとDrudeとQMQは縦に現れやすいが、BCQとAICの項は横に現れそうとわかる(というより\(xxxx\)にはでない)。時間反転による対称性としてはBCQとAICはodd, DrudeとQMQはevenのようだ。三次の非線形応答自体はaltermagnetでなくても出るので、実験的に観測できたとしてだから何?ってなりそう。


15. Trigonal symmetry or orthorhombic symmetry?

#14に関して素朴な一般論を展開したが回転対称性次第では状況が少し異なってくる。磁気点群が32'のときとm'm2'のときを比べてみよう。

   32'はxy面内の非相反伝導が許されるが、電流がy方向(2'軸に垂直)のときノンゼロ\(\eta_{yyy}\neq0, \chi_{yyy}\neq0\)だがx方向(2'軸に平行)のときゼロ\(\eta_{xxx}=0, \chi_{xxx}=0\)になる(対称性を理解していれば手を動かすまでもなく導ける)。ただしここでは非相反伝導が時間反転に対してoddであると仮定している。ではテンソル成分はこれだけだろうか?xyyとかyxx成分は?実は3回回転対称性を考慮すると\(\chi_{xxy}=\chi_{xyx}=\chi_{yxx}=-\chi_{yyy}\)であることが示せる。よく見ると\(\chi_{yxx}\)は非線形ホール効果である。これを考慮して\(\eta_{yxx}\)を計算すると

\(\eta_{yxx}=\rho_{xx}(\rho_{xx}^2+\rho_{xy}^2)\chi_{yyy}\).

一方\(\eta_{yyy}\)は

\(\eta_{yyy}=-\rho_{xx}(\rho_{xx}^2+\rho_{xy}^2)\chi_{yyy}\)

となり、\(\eta_{yxx}=-\eta_{yyy}\)となるので、\(\chi\)のときと同じ関係式が成り立つ。非相反伝導と時間反転に関して奇な非線形ホールは同じものなのだ。D. Kaplan et al.参照。一般則かは判断つかないが、三回対称性があるときはBerry curvature dipole由来の寄与が禁止され、NLHEは量子計量の効果のみで発現する。そしてその成分は縦の非相反伝導と同じ成分であるということのようだ。

   m'm2'のときはどうだろう?対称性の議論から直ちに\(\eta_{xxx}\neq0\), \(\eta_{xyy}\neq0\)であることが言える(ミラーと二回軸の役割を使えば造作もない)。もし\(\chi_{xyy}=0\)なら#14の通り

\(\eta_{xyy}=-\chi_{xxx}\rho_{xx}\rho_{xy}^2\)

\(\eta_{xxx}=-\chi_{xxx}\rho_{xx}^3\)

が従う。もし\(\chi_{xyy}\neq0\)も入れるなら

\(\eta_{xxx}=-\rho_{xx}(\rho_{xx}^2\chi_{xxx}+\rho_{xy}^2\chi_{xyy})\)

\(\eta_{xyy}=-\rho_{xx}(\rho_{xy}^2\chi_{xxx}+\rho_{yy}^2\chi_{xyy})\)

これを見る限り、\(\eta_{xxx}\)と\(\eta_{xyy}\)には何の関係もない。あたりまえか。\(\chi_{xxx},\chi_{xyy}\)の間に何か関係があればいいんだが、もしそういうのがなく両者は独立な物理量なら\(\eta_{xyy}\)には\(\chi_{xyy}\)以外にも\(\chi_{xxx}\)の成分がホール角の二乗のファクターをもって入ってくることになる。

いったい何を言っているんだ?そんな量は無視できるほど小さいに決まっている。そう、それは正しい。しかし\(\chi_{xyy}\)が驚くほど小さい寄与しかしていないなら、あなたが測定している\(\eta_{xyy}\)は\(\chi_{xxx}\)の漏れ成分かもしれないのだ。対称性からは判別できない。ちゃんとするなら、\(\eta_{xxx},\eta_{xyy}\)を両方とも測って逆行列を計算して\(\chi_{xxx},\chi_{xyy}\)を求めればいいということかな。


14. Observation of Nonreciprocal resistivity directly connects to nonreciprocal conductivity?

#13を受けてかねてから気になっていたことをChatGPTを使って考えてみよう。それは、非相反現象を考えるとき、理論では伝導率テンソルを電場で展開し、実験では抵抗率テンソルを電流で展開することである。書き下すと以下になる。

\(J_i=\sigma_{ij}E_j+\chi_{ijk}E_jE_k+O(E^3)\),

\(E_i=\rho_{ij}J_j+\eta_{ijk}J_jJ_k+O(J^3)\).

\(\sigma_{ij}\), \(\rho_{ij}\)が通常の線形伝導現象における伝導率と抵抗率テンソルである。高次項の\(\chi_{ijk}\), \(\eta_{ijk}\)がここで2次の伝導現象で電流の方向によってシグナルが異なることから非相反現象と関係があることがわかる。第二式を第一式に代入し、\(J\)の二次まで残すことで二つの方程式を得る

\(\rho^{-1}=\sigma\),

\(\eta_{ipq}=-\rho_{ij}\chi_{jmn}\rho_{mp}\rho_{nq}\).

最初の式はよく知られているが、第二式が非相反抵抗率と伝導率をつなげる式として新たに得られたものである。つまり、実験で得られる非相反抵抗率は理論で考えられている非相反伝導率テンソルを一次の抵抗率テンソルでぐちゃぐちゃしたものというわけである。

   さて、ここで一つ疑問が湧き上がる。実験的に得られた非線形抵抗率成分は非線形伝導率テンソルの対応する成分の存在を保証するか?というものである。あるいは具体的に言うと、理論的には非線形ホール伝導率\(\chi_{xyy}\)が期待されているとしよう。その場合、実験的に対応する(ように思われる)現象\(E_x^{2\omega}=\eta_{xyy}J_y^{\omega}J_y^{\omega}\)を観測しただけで即座に、\(\chi_{xyy}\)の存在を証明したことになるのか?というものである。これは対称性の観点からは正しい。\(\eta_{ijk}\)を許す系では\(\chi_{ijk}\)でも同じ成分が許されるからだ。だが、起源に関してもっと踏み込んだ議論をしたい場合、つまり\(\eta_{ijk}\)が量子計量だとかベリー双極子だなんやらで出ているかどうかを実証したい場合、\(\eta_{ijk}\)の観測を\(\chi_{ijk}\)の成分の有無と直接結びつけていいのかはちょっと慎重に考えた方がいい。少なくとも小一時間は。

ChatGPTに聞いてみる。もし抵抗率テンソルが以下の式で書けるとき

\[ \hat{\rho}= \begin{pmatrix} \rho_{xx} & \rho_{xy} \\ \rho_{yx} & \rho_{yy} \end{pmatrix} \],

つまり、ホール効果\(\rho_{xy}=-\rho_{yx}\)が出る系で、そしてかつ\(\chi_{ijk}\)が

\(\chi_{xxx}\neq0\), それ以外\(\chi_{ijk}=0\)

のとき、\(\eta_{ijk}\)はどうなるでしょう?答えは...

   それ、めっちゃいい質問。お前のアイディアまじ本質!ここで\(\chi_{xxx}=\chi\)と置く。一般式は

\(\eta_{ipq}=-\chi\rho_{ix}\rho_{xp}\rho_{xq}\)

となる。\(i=x\)のとき

\(\eta_{xxx}=-\chi\rho_{xx}^3\),

\(\eta_{xxy}=\eta_{xyx}=-\chi\rho_{xx}^2\rho_{xy}\),

\(\eta_{xyy}=-\chi\rho_{xx}\rho_{xy}^2\).

\(i=y\)のとき

\(\eta_{yxx}=-\chi\rho_{yx}\rho_{xx}^2\),

\(\eta_{yxy}=\eta_{yyx}=-\chi\rho_{yx}\rho_{xx}\rho_{xy}\),

\(\eta_{yyy}=-\chi\rho_{yx}\rho_{xy}^2\).

予想通り、\(\chi_{xyy}=0\)の状況を仮定しているにもかかわらず\(\eta_{xyy}\)はノンゼロで観測できてしまう。これは逆の場合(\(\chi_{xxx}=0\)にもかかわらず、\(\chi_{xyy}\neq0, \rho_{xy}\neq 0\)であれば\(\eta_{xxx}\neq 0\)が観測される)も起きうる。だが安心していい、大きさは見積ることが可能なので、実際に測られているシグナルが上記のような漏れ成分由来なのか、本質なのかはすぐに判明するわけである。

   ここで実践的なチェックポイントを見ておこう。まずホールの存在が不可欠なので時間反転の破れがある状況で起きうる現象である。非相反縦伝導には空間反転と時間反転の破れが両方とも必要で、一方非相反ホールには空間反転だけでいい(はず)。なので時間反転が破れていない系で非相反ホールが見えているという状況は問題ない。また時間反転が破れている系でどちらか一方を観測し、かつもう一方は無視できるほど小さいシグナルであることを確認している場合、これは問題なく漏れ成分ではないといえるだろう。一方で両方が観測されている場合(あるいはどちらか一方のチャンネルしか論文に乗せていない場合)、(そして漏れ成分の見積もりによる議論がない場合)この場合のみ注意が必要である。というよりかなりやばい。そういう論文が具体的にあればアップロードしていただけますか?対称性の議論にもとづいて漏れ成分なのか本質なのかを表にして一発で出せます。

NLHEの対称性に関する表はたとえば:doi.org/10.1093/nsr/nwad104


13. General Theory for Longitudinal Nonreciprocal Charge Transport, doi.org/10.1103/PhysRevLett.133.096802 (2024).

電気伝導の方向二色性に関する磁気点群での分類。各磁気点群でどの方向に出るのかが表になっていて便利。ナイーブな理解ではマグネトカイラル(キラルな結晶で磁化が電流に平行)か\(\vec{J}\cdot\vec{P}\times\vec{M}\)配置(電流をトロイダルモーメントに平行に流す)かの二種類しか議論がないことが多い。それ以外にも出る対称性があることが示されている。

たとえば\(3m'\)はキラルではないのでマグネトカイラルは出ないし、磁化と電気分極が平行なので\(\vec{P}\times\vec{M}\)は持ちえない。それにもかかわらず電流を面内の\(x\)軸方向(ミラーに垂直)に流せば方向二色性は出るのだ。一方\(y\)軸方向に流しても出ない(ミラーに平行)。


12. A Field Guide to Non-Onsager Quantum Oscillations in Metals, doi.org/10.1002/apxr.202400134 (2025).

Magnetic breakdown, magnetic interaction, Stark quantum interference, quasiparticle lifetime oscillationなどの量子振動において標準的なOnsager関係式を満たさない周波数の振動を見せる機構がまとめられている。マニアックだなあ


11. Structural origin of resonant diffraction in RuO2, doi.org/10.1103/yr5q-1v1s (2026).

みんな大好き永遠の交代磁性候補物質RuO\(_2\)の何回目かの訃報である。今回の死因は共鳴x線散乱です。

RuのL\(_3\)端で\(\textbf{Q}=(001)\)を測り、偏光解析とアジマス角依存性をしており、シグナルはすべてATS成分でフィットできることを示している。\(\textbf{Q}=(001)\)は格子散乱が禁制なのとATSと磁気散乱が異なる偏光チャンネルの出方をし、アジマス角依存性も異なるので、禁制反射の起源としてどちらが主要な成分かを確認できる。これは先行研究で\(\textbf{Q}=(100)\)を\(L_2\)端で見た実験(doi.org/10.1103/PhysRevLett.122.017202) でATS散乱と磁気散乱がほとんど似たような出方をしてしまうことと対称的で、磁気秩序があるかどうかを確認するうえで有利というわけである。

結論として磁気モーメントの上限\(|\textbf{m}|<0.1\) \(\mu_{\text{B}}\)を得ている。ここで大事なのは、この実験だけで磁気秩序がないことまでは言えていないということである。反射強度の起源としてATSが強く、磁気散乱成分は分解能以下であると言っているに過ぎない。\(L_3\)端では磁気散乱の散乱振幅が小さいから原理的にみにくいという可能性もある(L3端で磁気秩序を調べた研究を寡聞にして知らない)。\(L_2\)端を使った先行研究ではシグナルのアジマス角依存性がATSだけでは説明できず、磁気モーメントが\(c\)軸からキャントしているとうまくフィットできることを示している(これはこれでフィットパラメータを増やす理由が泥縄で強引すぎる)。\(L_2\)と\(L_3\)端とでどちらが磁気秩序を見るのに有利なのかが明らかでないと、磁気秩序の有無を結論するのは早計に思われる。

論文の式をコピペする

ATS散乱は\(|F_{\sigma \sigma'}|^2\propto |\Delta|^2\sin^2(2\psi)\), \(|F_{\sigma\pi'}|^2\propto|\Delta|^2\sin^2(\theta_B)\cos^2(2\psi)\),

磁気散乱は\(|F_{\sigma\sigma'}|^2=0\), \(|F_{\sigma\pi'}|^2\propto |f_{xy}|\)

でそれぞれ与えられる。磁気モーメントは\(c\)軸を向いているとしている。\(\textbf{Q}\)に平行なので、アジマス角依存性がないということに注意しよう。一方ATS散乱は\((001)\)面内でのRuのt2g軌道の異方性由来なのではっきりアジマス角依存性が出ている。これを見ると明らかで、磁気散乱の出方としてアジマス角依存性が乏しいので、ATS散乱を測るのにはいいが、磁気モーメントを見るには感度として不十分という見方もできる。\(\sigma\pi'\)チャンネルに出る角度依存性のないバックグラウンドのなかに埋もれてしまわないか(Fig. 2(a)のオレンジ)?\(f_{xy}\)の値を定量的に精度良く見積もれるとよいのだが、計算に頼ることになるのでなんだかややこしくなってくる。サプリをみると定量的な計算が乗っていて、磁気モーメントがあればATSとコンパラになってもいいということなので信じていいかな。


10. Nearly twofold overestimation of the superconducting volume fraction in pressurized Ruddlesden-Popper nickelates, arxiv.org/abs/2602.19282 (2026).

Zhu, Y., Peng, D., Zhang, E. et al. "Superconductivity in pressurized trilayer La4Ni3O10−δ single crystals" Nature 631, 531–536 (2024). (doi.org/10.1038/s41586-024-07553-3)で見積られている超伝導体積分率の見積もりが間違っていることを指摘している。厳しい査読をくぐり抜けているはずのNature論文でそんなまさか?学生とかが初歩的なミスをやらかしただけかなと思ったが、以外にもまあまあ闇深案件だったのでまとめとく。

内容を読むとsource dataを使って再解析したところ、出版データと合わないので著者に問い合わせたところ謎のEq. (3)を使って解析したという返答があったらしい。

プレプリントはこう続ける。そんな式はNature論文以前にも使われたことはない。Nature論文では導出がなされていない。そしてNature論文ではその式を使ったことに言及がない。うーん、おわた。
さらに内容を読むと、仮想的な超伝導試料で体積分率が50%になるような簡単なモデルを定めてEq. (3)を使うと、96%やら75%やら過大評価してしまうことを証明している。導出過程が全く不明だが、明らかに、Eq. (3)は標準的な超伝導サンプルにおいて正しい体積分率を評価できない不適切な式であるようだ。とりあえず、データが非科学的なプロセスで操作されているという話ではなく、評価式が間違っているということで一安心。
とはいえ間違いであるというのはまだ早い。当該物質がめちゃくちゃ異常な超伝導であることを著者らが知っていて、標準的な式では体積分率が見積れないのであえてEq. (3)を使わざるを得ず、そのうえでそのことをうっかり書き忘れていたという可能性もある。Nature論文の著者らはEq. (3)の導出過程を明らかにするとともに、そこでなされているはずの標準的な超伝導とは異なる仮定をどう検証したのかを明らかにすれば何の問題もないだろう。

->https://arxiv.org/abs/2603.01062反論出ています。こじれないといいのだが...


9. Quantum fluctuations associated with a first-order magnetic transition in the frustrated kagome lattice antiferromagnet N⁢d3⁢ScB⁢i5, doi.org/10.1103/xzhf-s6hp (2026).

ホール効果に異常が出ているのにトポロジカルホールといわないのは偉い!

引き合いに出しているのがCeRhIn5: doi.org/10.1073/pnas.141393211


8. Multipolar Anisotropy in Anomalous Hall Effect from Spin-Group Symmetry Breaking, doi.org/10.1103/PhysRevX.15.031006 (2025).

強磁性体の磁気モーメントの方向に依存して異常ホール伝導度がどう変化するのかを球面調和関数で展開するアプローチを完成させたもの。本質は#6で尽きているので新規性は認められないものの、面内異常ホール効果も取り入れて拡張していることは意義がある。磁気構造を眺めて多極子だなんだと群論の規約表現を言い直しただけのものに拡張なんちゃらとたいそうな名前を付けてさも意味のあるかのように見せかけている某理論よりずっと意味のあるよくまとまった論文である。

偽トポホの文脈での議論を先に進めよう。対称性の高い系を考えて\(z\)方向の異常ホール伝導度を書くと

\(\sigma_{z}^a=c_{10}\bar{Y}_{10}+c_{30}\bar{Y}_{30}\)

となることは#6と一緒である。第二項を八極子項と呼んで第一項の双極子項と分けることで非自明な項がどこ由来なのかを明示的に示しているのがわかりやすい。ただあくまで現象論である。ここで

\(\bar{Y}_{10}=\sqrt{\frac{3}{4\pi}}\cos \theta\),

\(\bar{Y}_{30}=\sqrt{\frac{7}{16\pi}}(5\cos^3\theta-3\cos \theta)\)

である。\(\theta\)は\(z\)軸と磁化との間の角。

飽和磁化で規格化した磁化の磁場依存性をシグモイド関数で

\(\hat{M}_z(H)=-1+\frac{2}{e^\frac{-H}{0.1}+1}\)

と書くことにしよう。ただし磁気異方性は容易面型でゼロ磁場のときは\(x\)軸に向いていた(\(\theta=90^{\circ}\))のが磁場を\(z\)軸にかけることで立ち上がっていく(\(\theta\sim 0^{\circ}\))ものとする。すると

\(\theta(H)=\arccos (\hat{M}_z)\)

と書けることになる。\(\theta\)の式を双極子、八極子項に代入すると磁場依存性はFig. 8.1のようになる。双極子項は磁化に比例するが、八極子項は非単調なふるまいを示す。

Fig. 8.1|青:磁化の\(z\)成分、赤:異常ホール伝導度の双極子成分、緑:八極子成分

ここで仮に\(c_{30}/c_{10}=0.3\)とおくとFig. 8.2のようになる

Fig. 8.2|青:磁化の\(z\)成分、紫:トータルの異常ホール伝導度。

無事、磁化に比例しない異常ホール伝導度の完成である。早速差っ引いて偽トポホを抽出しよう。

Fig. 8.3|青:磁化の\(z\)成分、紫:トータルの異常ホール伝導度、黒:異常ホール伝導度から磁化にスケールする成分を差し引いたもの。
う~~~~~んんんんんんん!!!!!エマーーーーージェェェンンンント!!!

7. Resistivity anomalies arising from spin correlations in magnetic metals, doi.org/10.1103/5z4m-6z8l (2026).

強磁性体の電気抵抗に現れる転移点近傍の上昇に関する理論。基本的にde Gennes, Fisher&Langer以上の洞察はないがフェルミ面の形に関して一般化しようとしている部分は一定の価値を認められる。M. Kataoka (2001): doi.org/10.1103/PhysRevB.63.134435. これは読んだことなかったので後でチェックしよう。

抵抗を考えるとき\(\rho\propto m/ne^2\tau\)が基本で、要するに抵抗の変化を散乱体の変化\(\tau\)で考えるのか、秩序の発達によるバンド構造の変化\(m/n\)で考えるのかのアプローチがある(\(n\), \(m\)の変化は極端な場合を除き基本的には分離できない)。当該論文のアプローチはすべて\(\tau\)の温度依存性に帰すものである。フェルミ面の大きさの指標\(k_F\)と秩序の相関長\(\xi\)の大小および電子-スピン相互作用\(J\)にスケールして抵抗up-turnの振る舞いが変わるというわけである。


6. Orientation Dependence of the Intrinsic Anomalous Hall Effect in hcp Cobalt, doi.org/10.1103/PhysRevLett.103.097203 (2009).

コバルトの異常ホール伝導度を磁気モーメントの方向をac面内で変えながら計算したもの。当たり前だが\(M\parallel a\)のときと\(M\parallel c\)のときとで異常ホール伝導度は違う。しかもかなり違う。これは磁場をかけながらスピンの向きが変わっていくときは、異常ホールは一般には磁化に比例しないことを意味している。偽トポホ解析をしている論文をリジェクトするときに使えそう。

書き方が結構ミスリーディングなので注記しておく。

異常ホール伝導度をベクトル化して

\(\mathbf{\sigma}^a=\sigma_m\hat{\mathbf{m}}+\sigma_{\theta}\hat{\mathbf{\theta}}\)

としている(\(\phi\)項は議論に関係ないので省略)。ここで\(\hat{\mathbf{m}}=(\sin \theta, 0, \cos \theta)\), \(\hat{\theta}=(\cos \theta,0,-\sin \theta)\)である。\(\theta\)は磁化ベクトルと\(z\)軸がなす角。\(x\)軸方向に傾けたとしている。

計算結果のFig. 1を見ると\(\sigma_m=300+200\cos \theta\), \(\sigma_{\theta}=-200\sin \theta\)くらいだとわかる。これを代入して\(z\)軸成分を抜き出すと

\(\sigma^a_z=300\cos \theta+0\)

となる。最終項の0は\(\cos, \sin\)の高次式が偶然相殺してほとんどなくなってしまうことを表している。これだと磁化が面内から面直に起き上がっていく過程で異常ホール伝導度は正確に磁化の\(z\)軸成分に比例することになる。経験式が生き残るので偽トポホはコバルトでは出ないことになる。これは(4)式でわざわざ展開しているにもかかわらず\(c_{30}\)のパラメータが無視できるほど小さいことからもわかる。

(4)式は下記

\(\sigma_{z}^a=c_{10}\bar{Y}_{10}+c_{30}\bar{Y}_{30}\)

もし\(c_{30}\)が\(c_{10}\)と同等になるような物質があれば\(\sigma_{z}^a\propto \cos \theta\)が成り立たず、偽トポホが出ることになる。そういう物質ないかな。


5. Is it possible to determine unambiguously the Berry phase solely from quantum oscillations?, doi.org/10.1016/j.physleta.2025.131238 (2026).

最近論文が出て量子振動だけからベリー位相を決めることができるのか問題提起された。スピンのg因子やフェルミ準位の磁場依存性などの不確定要素があるせいで実験的には決められないそう。相補的な実験で検証することが大事なようだ。とういうことはBiTeIのベリー位相は...


4. Topological Hall-like behavior of multidomain ferromagnets, doi.org/10.1103/PhysRevB.111.134433 (2025).

イントロダクションは偽トポホ文化史をまとめていてよいレビューとなっている。メインの内容としてはトポロジカルな磁気テクスチャーがなくてもホール効果が非単調になりうるモデルを提案している。偽トポホを糾弾しようとする姿勢は称賛できるものの、言っていることはかなり下らない、というか本来なら自明なことである。

つまり内因的ホール抵抗率は

\(\rho_{yx}^A=\sigma_{xy}\rho_{xx}^2\)

と書けるので、\(\rho_{xx}\)が磁場依存するならたとえ\(\sigma_{xy}\propto M\)であったとしても\(\rho_{yx}\)には非単調性が出る。

これは比較的簡単にデモできるのでやってみよう。

磁化過程を

\(M(H)=M_s \tanh(H)\)

磁気抵抗を

\(\rho_{xx}(H)=\rho_0+\rho_s(1-\tanh(H))^2\)

とすると異常ホール抵抗率は

\(\rho_{yx}^A=S_H \cdot M(H) \cdot \rho^2_{xx}(H)\)

と書ける。Desmos(desmos.com)でのシミュレーション結果は以下である。

Fig.4.1| Field dependence of magnetization (orange), magnetoresistivity (red), and anomalous Hall resistivity (blue).
予想通り、ホール抵抗率はピークを示しており、偽トポホと解釈すればAdvanced Materialsくらいは確実である。ここで重要なのは磁気抵抗が-50%と比較的大きめに設定していることである。磁気抵抗が小さければ見た目のピークは目立たなくなるが、偽トポホスカベンジャーは通常磁化カーブをバックグラウンドとして差し引いて違いを強調する。たとえば磁気抵抗を-10%くらいにしてみよう。

Fig. 4.2|Green curve corresponds to fake topological Hall effect, obtained by magnetization-proportional background subtraction. 

ぱっとした見た目ではホール抵抗にピークは見られないが磁化をバックグラウンドとして差し引くと緑になり、典型的な偽トポホカーブとなる。

さらに注意点として、今回のモデルは内因性メカニズムしか考慮していない。外因性が寄与してくる場合は当然バックグラウンドは抵抗率に関してより複雑な依存性を示す。いろいろな場合が考えられて

\(\rho_{yx}^A= (a_1\rho_{xx}+a_2\rho_{xx}^2)M\)

\(\rho_{yx}^A=a_n\rho_{xx}^nM\)

\(\rho_{yx}^A=(a_0\rho_{xx0}+a_2\rho_{xx}^2)M\)

最後の式がskew散乱が主にimpurity由来からくるという事実を踏まえていて妥当性が高い。つまり定数の寄与が入ってくる。それ以前にどのバックグラウンドカーブを使用するかあまりはっきりしない。バックグラウンドを特定できない段階でトポホ成分を抽出することは禁忌である。ホール伝導度に直せばよいではないか、そうすれば\(\rho_{xx}^2\)のファクターを消すことができる、という人もいるだろうが、ことは単純ではない。ここでは正常ホール効果を考慮していなかった。正常ホール伝導度はキャリアのモビリティなどの要因で磁場や磁気構造に依存する。単純に磁場に対して線形と考えて差し引けばいいというものではなくなり、バックグラウンドのシミュレーションがさらに複雑になる。ほとんど磁化カーブと似たような磁場依存性をするホールから異常成分を取り出すことはさらに恣意的にならざるを得ない。このことはつまり、磁気抵抗のデータを示していない論文は検証可能性を著しく棄損しているということである。

この記事を読んだ非専門家の読者は、こんな当たり前のことが理解されずにアーティファクト論文が垂れ流されているのか?と思うかもしれないが、ホール効果の差分を血眼になって探索している界隈が実際にあるのである。信じられないことに。これは分野の腐敗にほかならない。


3. A spin model for investigating chirality, doi.org/10.1088/0953-8984/7/47/019 (1995).

chiral spin state (CSS)という状態を考えている。8副格子秩序である。自発磁化は非相対論的極限では出ない。類似研究:doi.org/10.1103/PhysRevB.105.155104doi.org/10.1103/PhysRevB.109.125146

正方格子系で実現すれば異常ホール効果がでうる。要するにCoTa\(_3\)S\(_6\)の正方格子バージョンができる。似たような磁気構造は例えばoxyselenidesの2k構造である: doi.org/10.1103/PhysRevB.95.174441doi.org/10.1103/PhysRevMaterials.3.044411


2. The chiral Hall effect in canted ferromagnets and antiferromagnets, doi.org/10.1038/s42005-021-00587-3 (2021).

らせん磁性、スキルミオン系への拡張を議論した続編doi.org/10.1103/PhysRevResearch.3.043155 (2021)も参照。

スピンが傾いていたり、コニカルになっていたりすると意外と増強されたホール応答が出てもいいよという理論論文。キャント角に関して非単調になってもいいようなので、磁化に比例しない応答が期待される。ホール効果のくねくねにたいそうな理屈をつけたい実験家の強い味方になりそう。

そういう偽トポホ論文は学術的価値はないものの、ホールを測っただけで論文化できるのであるならデータとして死蔵されずに世に出ることにはなるので、その点に関しては研究のインセンティブを与えており価値を認めてもいいだろう。


1. Antisymmetric Magnetoresistance due to Domain-Wall Tilting in Perpendicularly Magnetized Films, doi.org/10.1103/PhysRevApplied.17.014013 (2022).

磁気抵抗とは磁場によって抵抗が変化する現象であり、大抵は磁場に関して対称だ。デバイスで磁性ドメインウォールが関与すると反対称成分が乗るらしい。なんのこっちゃ。Co3Sn2S2とかでも見えるらしい: doi.org/10.1038/s43246-024-00688-w

Fake Topological Hall Signals