2026年2月12日木曜日

2026年の数学書メモ

2026年に読んでいく数学書に関してメモしていく。

群論への第一歩 集合、写像から準同型定理まで 結城 浩 SBクリエイティブ

(https://amzn.asia/d/g1r1txj, Jan/1, Kindle固定レイアウト)

 タイトルにもある通り集合と写像の基礎から解説してくれる群論の教科書である。淡々として愛想のない一般的数学書とは異なり、構成に工夫がみられる。新しい概念を定義した後に「ちょっと一言」で注意点もしくはここが重要なポイントだから読むスピードを落としてとか、式の確認をさぼらないでといったアドバイスがある。また各章の最後には学生と先生の会話を模したQ&Aのやり取りがなされている。面白いのは演習問題の解答にまでこれがあるので読んでいて飽きない。全射・単射、二項演算など群論に入る前の基本をまず説明してから群を定義するので丁寧である。
 群準同型写像は全射とは限らないというのは知らなかった。言われればそうなのだが、写像の行き先である群の部分群であればいいわけだ。
 準同型定理からさらに進んで、作用についても話題が及んでいてよい。ただし軌道はこぼれ話にしか出てこないのが残念。作用と軌道あたりが群論を勉強していてわからなくなりやすいポイントなのだが。

群の表示:大学数学 スポットライト・シリーズ6 佐藤 隆夫 近代科学社

(https://amzn.asia/d/bVPH3zm, Jan/1, Kindle固定レイアウト)

自由群の丁寧な解説があってよい。ただし微妙な行間があるので何が言いたいのかにわかにはわからない箇所がある。

連続群論の基礎(基礎数学シリーズ) 村上 信吾 朝倉書店

(https://amzn.asia/d/07i2rclU, Feb/4, ソフトカバー)

 横田『群と位相』がだいたい読めてきたので、理解の確認のために読むことにした。連続群は位相群とリー群をまとめた概念のようだが、最近の本ではあまり聞かない。横田本にはリー群・多様体の解説があっさり目なのでよい接続を与えるだろうか?説明の丁寧さは横田本の方がやはり良い。位相群の導入まで20ページは結構駆け足で、横田本の86ページ(2章第3節)とはえらい違いである。横田本が丁寧すぎるのだろうか?

位相空間論 小山 晃 森北出版

(https://www.amazon.co.jp/dp/4627078617?ref_=cm_sw_r_ffobk_cp_ud_dp_2MQ32Z319Q92Z70Z2S5Q&bestFormat=true, Feb/11, ソフトカバー)

 パラ見した感じ概念導入に際して著者の意図が明記されているなと思った。Kindleがないので買わざるを得ない。分離公理と距離化可能性について動機とともに書いてあってよい。多くの教科書ではこれこれをT空間と呼ぶとだけ言ってなんでそれが必要なのかを説明しない不親切設計である。しかし肝心なところが問題になっていて自分で考えないといけないのは読書負担が高め。同様微妙な行間が埋められないことがしばしばある。対応するところの記述の丁寧さは『これからの集合と位相』のほうがよさそう。

 多様体をやると位相空間をハウスドルフ空間と置く、位相群をやるとT1空間と置く、というおまじないが定義に出てくるのだが説明は一切なしのことが多い。説明しないなら定義に書く必要はないし、説明するなら理由を書くべきだと思う。結局おまじないでしかないのだが。

複素解析: 一変数・多変数の関数 相原・野口 裳華房
(https://amzn.asia/d/08qjtMOE, Apr/4, Kindle)

実数の議論から始めて1変数複素解析から多変数複素解析にだんだんレベルアップしていく丁寧な解説がよい。ただし、いやーな行間や論理の飛躍があり、自分で埋めないといけない。どういやかというと、たとえばある証明の途中の式変形で、(式A)なので(式B)と書いてあるとする。本書ではなぜその式変形が許されるのかの理由が書いていないことが多い。主に二つの場合があって、1.Aを式変形すると実際Bになる場合と、2.証明の最初に仮定した条件により式Aは式Bを満たすからという場合の二種類がある。これは著者側からするとどちらなのか自明なので書かなくてもわかるだろうと思って省略してしまいがちであるが、読者側からすると読むときにいちいちどちらなのか判断しないといけなくなる。これは読書負荷が高い。これをやってしまっている教科書は意外と多くて、結果読みにくい本(だけどなぜか上級者や分かってる人からは評価の高い本)になる。不親切設計。でも読み進めるときに実力はつきそう。

楕円積分と楕円関数 武部尚志 日本評論社

(https://amzn.asia/d/063Srxry, Apr/12, Kindle)

楕円積分とその発展した議論が丁寧に議論されていてたいへんよいと思った。多くの教科書ではついでみたいな紹介のされ方をされる楕円積分・関数だが歴史的経緯や初等的導出に紙数が費やされていて初学者もついていける。

複素解析 高橋礼司 東京大学出版会

(https://amzn.asia/d/0bSWYGlP, Apr/12, Kindle)

1990年出版のようなので言葉遣いは現代的ではないが、読みにくいというほどではないので問題はないだろう。現代的な教科書では書いていないような歴史的経緯も触れながら解説されているので読んでいて楽しい。

複素数と複素平面ー幾何への応用ー 桑田孝泰・前原濶 共立出版

(https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-08-EK-1048809, Apr/19, Kinoppy)

複素数の演算を使って平面幾何のさまざまな定理を見通しよく示していこうという面白い本。アポロニウスの円とかが出てきて楽しい。Kindleにはないが紙の本は手に入れにくいというものもKinoppyで電子書籍として読めるので便利だ。

リーマン面の理論 寺杣友秀 森北出版

(https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-08-EK-0794949, Apr/22, Kinoppy)

楕円積分と楕円関数(武部)ではリーマン面の説明が出てくるが、見慣れない議論だったので他書でいいのがないかを探していた。この本の最初の方は楕円関数から入ってリーマン面の解説をしているのでよい。

Introduction to Lie Algebras Erdmann & Wildon Springer

(https://amzn.asia/d/06tdrIgK, May/1, Soft cover)

リー代数の基礎的なことが豊富な演習問題とともに着実に学べてよい。解答が乗ってないことが多いが、chatGPTに書名とExercise番号を言うとなぜか答えてくれるのでとても便利。これを読んでからリー代数と素粒子論(竹内)を読むといかに要領を得ないわかりにくい解説なのかが見て取れるのでとても辛い。

ホモロジー代数 佐藤隆夫 森北出版

(https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-08-EK-2458964, May/9, Kinoppy)

上記リー代数の教科書でmoduleが出てきてなんだっけ?となったのだが、どうやら加群のことらしい。本書はリー代数の加群を扱っているのでちょうどいいかもと思ったが、環と加群に関しては基本的なことは既知として話を進めているのでちゃんと別の教科書で勉強したほうがいいようだ。とはいえ第一章のまとめを目標にできるので良い。著者の方は『基本群と被覆空間』、『群のコホモロジー』を書かれていて前者はとても良かった(最初の方の位相空間のまとめとかが)ので信頼できる。環と加群は抽象的なので敬遠してしまいがちだが本書はそれを学ぶモチベーションになりそうな本である。

Matric groups an introduction to Lie group theory Andrew Baker Springer

(https://amzn.asia/d/0chhDL93, May 7, Soft cover)

おおむね群と位相(横田)とか連続群の基礎(村上)に描いてあることと重複している。位相空間を既知としていたり、記号の定義がはっきりしないことが散見される。Chap. 4, 5が特に負荷が高い。説明が特別わかりやすいかといわれるとそうではないと思った。同じシリーズのLie代数に比べると物足りない。

Naive Lie theory John Stillwell Springer

(https://amzn.asia/d/077VEyTj, May 8, Soft cover)

読み物的な性質のリー理論の解説。素朴な具体例の観察から理解を促す内容に好感が持てる。ただし教科書ではないので厳密性には目をつぶり、割り切って読んだ方が良い。

数の世界 自然数から実数、複素数、そして四元数へ 松岡学 講談社

(https://amzn.asia/d/04KHmrKT, May 17, Kindle)

四元数に関して丁寧な式変形で基本的なことがまとまってて良い。四元数の計算は慣れないと難しいので、これくらい紙面を割いて説明してくれるとありがたい。タイトルには書いてないが八元数にまで話が及んでいてなおよい。とくに複素数から四元数を構成する方法をまねて四元数から八元数を構成する方法を紹介しているのが良い。八元数の演算規則は例の三角形の図を見せられてこの通りにやるんだよと言われるだけなのだが、それが少しでも自然に思えるのが良かった。

7章でsplit複素数、split四元数、split八元数にも話が及び、Lie群への展開を示唆する構成はとても満足のものである。横田本を読んでいるとなんの意図があって導入するのかよくわからずに話が進むが、こういうつながりがあるのだなと理解できる。p256でとうとう横田先生の名前が出てきて完全に伏線が回収されるのでそこまで読んでみてほしい。

Lie Groups, Lie Algebras, and Some of Their Applications R. Gilmore Dover

(https://a.co/d/04JVP5DN, May 22, Soft cover)

FF推薦のリー群の本なので購入。結構分厚い。説明も癖が強い感じが良い。

Essential Topology M. R. Crossley Springer

(https://a.co/d/0ajXjiPo, May 29, Soft cover)

説明は当たり障りのない感じ。具体例が多いので理解は助かりそう。

Clifford Algebras and Spinors  Cambridge Univ.

(https://a.co/d/0inkq1t4, June 1, Soft cover)

スピノールとクリフォード代数の関係を知りたくて購入。この手の本はいろいろあるが、これが一番相性がよさそう。

Topology K. Janich Springer

(https://amzn.asia/d/0cnsgUsY, June 4, Hard cover)

位相空間論の教科書。図が丁寧でパラパラ見ているだけで楽しい。証明が厳密に書いてあるというより、この概念がなぜ大事なのか哲学的な記述が多く読んでいて楽しい。位相空間論は抽象的なので勉強していてモチベを保つのが難しい。この本で気分転換だ。

A Combinatorial Introduction to Topology M. Henle Dover

(https://amzn.asia/d/06OvJqCH, June 15, Soft cover)

手を動かしてまなべる位相幾何学の教科書。記述はあまり現代的でなく、読みずらい。図が豊富なので眺めてて楽しい。でもそれだけ。

双曲幾何 深谷賢治 岩波

(https://amzn.asia/d/0fF06JzC, June 17, Soft cover)

このトピックを手軽に学べる本としてとても有用。たとえば曲率とトポロジー(河野)にも類似トピックの扱いはあるが信じられないくらいわかりずらい(各記述に飛躍が多いし、数式もなぜそう定義するのかの解説もほとんどない)。それに比べるととても丁寧だ。

Hyperbolic Geometry J. W. Anderson Springer

(https://amzn.asia/d/0brz5KZb, June 25, Soft cover)

飛躍がなく丁寧で分かりやすい。信頼のSUMSテキストシリーズ。定価7000円のところ明倫館で3500円。Chapter 2: The General Mobius Groupがやたら長くてほかの教科書では端折られていることをゆっくり学べるのでこれはいい。

線型代数と群: 行列の分解から古典群へ 示野信一 共立出版

(https://amzn.asia/d/0gYxPLew, June 29, Soft cover)

事実の羅列しかないので読んでいて理解を積み上げていく楽しみがない。脈絡のない情報だけを無理やり喉奥に詰め込まれていく感じだ。表現論序説も同様。期待していたシリーズなだけに残念。

微分幾何入門 佐古彰史 森北出版

(https://amzn.asia/d/077EDPq6, Aug. 13, Soft cover)

前から読んでる本なのだが、少しずつ読めることが増えてきた。微分幾何の本はこれ以外に『微分幾何とトポロジー』(永長)、『微分・位相幾何』(和達)、『接続の微分幾何とゲージ理論』(小林)、『トゥー多様体』(Tu)などを手元においている。一つの本を読んでいてわからなくなったら別の本の該当記述を読んで行間を埋めるを繰り返すことで少しずつ理解が進んでいる。表題の本が一番付き合いが長い。個人的に理解の目標を置いているのが、ファイバー束、接続、特性類なのだが最近やっとファイバー束が何なのかわかってきた。

現在の各教科書の評価は以下の通り。別ブログにも

佐古:普通の数学書のような定理命題の証明が羅列される感じでなく、初学者にわかるように説明しようという工夫が随所にみられる。しかし、数学的に意図が取れない記述が多い。筆者の努力とは裏腹に文章としてうまくかけていない。難しい概念を平易に丁寧に伝えようとしていることには称賛を惜しまないが、残念ながらその試みは、筆者の意図を誤解のないように読者に伝えるということができていないというその一点で失敗しているといわざるを得ない。

永長:コンパクトに学べてよいが逆にそれ以外にいいところはない本である。物理学者が数学を中途半端にかじって(正しく理解しないまま)不正確なコピペを寄せ集めたような記述になってしまっている。著者が理解できていないといいたいわけではない。理解している人は絶対にそうは書かないというところで誤った記述になってしまっている。執筆の時間がとれず粗くなってしまったということなら、それは言い訳にはならなくて、当該内容を記述する筆者の力量の不足が明確に表れている。群、写像からはじまり、位相、ファイバー束、ホモロジーなどの数学的定義はそれっぽく書いてあるがお話にならないくらい間違ったものである。ほかに書いてくれる人がいなかったから自分で書いたということだが、もしそうだとしても、著者の能力を超えることをするべきではなかったといわざるを得ない。

和達:コンパクトさという点では永長本と同じようなもの。というより永長本の多くの部分はここでの記述の(不正確な)コピーなので永長本で意味が取れなかったらこの本をよく読む。薄い本なので数学的に不十分なのはしょうがない。微分幾何の簡潔な入門を与えるという永長本が目標として残念ながらできなかったことが、この本ではちゃんとできている。読み比べることで著者の力量・理解度の差が分かる。

小林:初見は面食らいっぱなしだが、実はちゃんと書かれていて理解が進むとわかる部分が増加していくという勉強の意欲にこたえてくれる良教科書である。行間は大きめだが物理学者がやらかすような不正確な表現は見られない。逆に数学者の悪癖として情報の圧縮のし過ぎや動機が不明瞭なままの事実の羅列が多く、ついていけなくなる。

Tu:大部なので読み通すことはできないが、理解があやふやになってどうしても解決できないなとなったときに参照するとちゃんと書いてある。数学的にちゃんとやるにはこうやるんだなと納得感が得られる。松島多様体のような前後の文脈が分からないと読めないというようなことがないのでつまみ読みで十分役割を果たす。

群と位相(横田)メモ