- 初学者でも読める。大学数学(線形代数、微積分学)程度の知識を前提としてそれ以外は一から順に説明していることが望ましい。
- 式変形が丁寧。手元にノートを出すわけにもいかないので目で追って暗算できる程度に式の変形が簡単であるとよい。
- 記号、図やレイアウトが見やすい。添え字だらけの煩雑な記号はないほうがいいし、わかりやすい図は理解を助ける。定理、命題、注意、例題などが枠で分けられていたり、ハイライトがされていたりすると読んでいて目に優しい。
- 読み物として楽しい。数学書のステレオタイプとして定義、命題、定理の証明が淡々と並んでいるだけで何を目指しているのかわからないというものがある。そうでなくて、筆者の意図や小話、註などがふんだんに含まれていると、読書負担が少ない。
Kindle有
うっかり本を持ってき忘れてしまって、本屋に駆け込むも月並みなベストセラー本ばかり。待ち時間でなにも読むものがない。そんな時でも空港のFree WiFiにつないでKindle版で数学書を購入できる。Kindleの端末も設定からWiFiに接続できるので、購入した本をダウンロードできる。搭乗してしまうとWiFiにつながらなくなるので注意だ。念のため何冊もダウンロードしておこう。
数学書を購入するときの注意として、固定レイアウト形式なのか、プリント・レプリカ形式なのかをチェックすることが大事だ。後者の場合、Kindle Paperwhiteなどの電子書籍リーダーでは開くことはできないので、iPadなどのタブレットを持っていなければスマホのKindleアプリで読む羽目になる。
数学書を読むときの注意として、レイアウト設定の余白を狭めるをOffにするとよい。固定レイアウト型だと余白を狭める設定のときはページ下部が途切れてしまうことがある。著者の独り言のような註が読めなくなってしまうのはとてももったいない。
Kindleで読みやすい数学書の特徴として以下があげられる:別ページの図や数式を頻繁に引用しない。紙の本と違ってページめくりに大きな制約がかかっているのが電子書籍である。読んでいる最中に行ったり来たりしなくてはいけないとなると読書体験としては劣化する。例えば登場人物が数十人出てくる小説で人物同士の関係性をいちいち巻頭の表を参照しなくてはならない場合を思い浮かべてほしい。固定レイアウト形式ではハイライトも文字検索機能も使えないのでなおさらページの行き来を必要とするスタイルはマイナスである。
群と位相 横田 裳華房
物理でよく出てくる古典群(SO(n), SU(n))や実・複素射影空間を実例に取り、群、位相空間、位相群を解説している。普通の位相空間論の教科書では具体例は載っていてもこれらすべてをカバーしていることは少ないので結局知りたいことが知れなくて物足りなく感じてしまいがちだ。本書のハイライトは4章の古典群と射影空間の基本群を求めるところだろう。
数学はとにかく抽象的で一般的になりがちだが、この本では具体的な例を挙げて各概念の説明がなされるので読んでいて地に足がついていられる。また前提知識なしで読めるので、概観をつかむためにとても役に立つ。各章はほどほどに独立しているので飛ばし読みでも全体の雰囲気を見失わずに読める。ただ現代的な教科書と違って著者の独り言のような注は少な目でやや淡々としている。レイアウトもちょっとみにくい。同著者の『位相幾何学から射影幾何学へ』(現代数学社)、『やさしい位相幾何学のはなし』(現代数学社 PDF版あり)は図を多用し平易な語り口で入門的な内容を扱っているのでこれもよい。一方、姉妹書の『群と表現』は多元環の導入でピンとこなかったので代数学の平易な入門書を探した方がよさそうだ。
基本群と被覆空間 佐藤 裳華房
物理学徒目線ではタイトル的にパッとしないので初学者がこの本を見つけても手に伸ばすことが少ないであろうことが非常にもったいない。レイアウトが秀逸なので読んでいて負担が少なく、現代的な教科書っぽく、概念を導入するときのこころや要するに何がしたいかとか、註が豊富なので読んでいて飽きない。個人的には位相空間論の説明が分かりやすくてよかった。はじめににある通り1-2章をある程度軽快に読み進められることを想定して書かれているので1冊の本のレベル設定としては高めになってしまうのだが、初学者は1-2章を読みこめば、3章以降への足取りが重くなってしまったとしてもよい勉強になるわけである。実際1-3章をざっと読んだが、タイトルにある基本群(4章)と被覆空間(5章)は本書のメインテーマにもかかわらずまだちゃんと読めていないので、いつかたどり着きたい。いや、専門家になるわけではないのでたどり着く必要はないのだが。
具体例から学ぶ多様体 藤岡 裳華房
多様体は定義だけ読むとなんだそういうものかとわかったような感じになってしまうが、実際どうやって構築するのかは具体例にもとづいて自分で計算してみないとよくわからない。位相空間論、多様体論で必要になってくる概念を具体例を通して解説していく形式になっている。普通の教科書では一般化しすぎて抽象的になりすぎな概念もイメージしやすくなるよう配慮されていてよい。またレイアウトがきれいで読みやすい。一方、数式が多めなので暗算に不慣れな場合は飛行機の座席で読むにはやや不向き。
代数トポロジーの基礎 和久井 近代科学社
とりあえず3章だけ読んだがホモロジーの説明が分かりやすくてよかった。ほかの本では簡潔かつ抽象的過ぎて何のことやら頭に入ってこなかったが、本書では一歩一歩着実に説明がされていて理解できた。レイアウトも見やすいし、具体例も豊富だ。演習問題が多めだが、解答が巻末にあるためKindleでは可読性が悪い。ただし解答は丁寧だ。別の機会にちゃんとやろう。
シルヴァーマン 代数学: 代数学への統一的入門
代数学の教科書で初学者としては一番読みやすいと思った。概念導入の動機付けやそれを実例を通してわかりやすく解説している。ほかの教科書は定義、証明、概念導入(動機付けなし)名前の定義(理由説明なし)の繰り返しで何をやりたいのかを読者に周知しないでどんどん先に進んでしまう。それでは読んでいてうんざりする。もっと楽しく入門したい。そんなあなたにおすすめの教科書だ。
代数入門 群と加群 堀田 裳華房
フォントや段組みが見やすく、書き口は初学者向けで読みやすい。シルヴァーマンと比べると記述はあっさりしているので読み比べると理解が深まりそう。
行列と行列式の基礎 線形代数入門 池田 東京大学出版会
表現論の教科書で定評のある著者による行列式を題材にした本。表現論のほうは個人的にはまとまりに欠けるので読み進められなかったが、こっちはどうだろう?
論理と集合から始める数学の基礎 嘉田 日本評論社
集合を理解するためには論理を理解する必要がある。例えば集合はものの集まりであるといった導入がされることが多いが、よくよく考えると定義になっているのかわからなくなる。より厳密なことは数学基礎論とか公理的集合論をやらないといけなくなるのだろうがそこまではやりたくないとき何を読めばいいのか迷ったらこれを勧める。情報科学をやる人向けに実用的に書かれたわかりやすい解説書である。ややくどいくらい繰り返し丁寧に記述されていて、論理の飛躍がないので読みやすかった。ほかにも命題の立て方や証明の運用上の注意点も書かれており勉強になる。
個人的に良いなと思ったポイントは、「集合では同一の要素が複数あることはない」とちゃんと書かれていることである。集合と要素の間の関係としてはその集合がその要素を「持つ」か「持たないか」の0,1の2通りだけであると第1章1ページ目に書かれている。これはものの集まりという素朴な集合に対するイメージでははっきりしないことであり、実際他書で書かれていることを見たことがない。例えば群における単位元の唯一性の証明の際、単位元がe, e'の二つあったとしてe=e'を証明して、ほら唯一でしょ?といった記述が多くの教科書にされている。私はこれでなぜ証明になるのかがよくわからなかった。e, e'の二つがあってそれらがともに単位元という役割をしていて、二つは別のものでは何がいけないのか?と疑問に思った。これは二項関係と写像の定義および要素の重複がないことを基礎にしている。e.e'=eで、e.e'=e'ならば(e,e')という二項関係の写像の行く先は集合の中で一つに定められていなければならない。集合の中で同じ要素が二つあることはないのでeとe'は同じ要素であることが言える。ちょっとどうでもよすぎることのような気もするが、個人的にちゃんと理解できたぞという体験は勉強の喜びである。
Kindle無
微分幾何入門 佐古 森北出版 (電子版あり)
微分幾何の教科書を読んでいるといつも押し出し・引き戻しでこんがらがり、接ベクトルのなぞの微分記号を使った定義で違和感を覚え、ファイバーバンドルのまどろっこしさに嫌気がさして読むのをやめてしまう。この本は現代的な教科書なのでなぜそういう概念を導入したいのか、何をしようとしているのかが丁寧に書かれているので、ついていくことができる。逆に言うと筆者の言っていることを順に鵜呑みにしていくだけで読み進めていけるところが脳への負担が少なくてよい。接続の微分幾何とゲージ理論(小林 裳華房)や理論物理のための 微分幾何学(杉田・岡本・関根)よりずっと読みやすい、飛行機の座席では。
アマゾンレビューをよむと不正確な記述があると指摘されているが、初学者がイメージをつかみやすくするために厳密性を犠牲にしているのかもしれない。いずれにしても初学者にはそれはわからないので気にせず読んでよいだろう。だんだんと理解が進んできて記述の不十分さに気づくようになってきたら、より専門的な本を読み始めるいい機会だと思う。
個人的にはファイバー束の説明くらいからだんだんなにが書いてあるのかわからなくなった。これは結局自分の多様体論に関しての理解が不十分であることから来ているのだが、それに加えて記述のラフさもこのあたりから目立ち始めるようだ。さらっと読んでしまうとなんとなく納得しそうになってしまうが、もう一歩進んだ理解を目指すならちゃんとした数学の本を読んだ方がいいのだろう。勉強が進んでからわかったことだが、説明がわからなくなった理由は本文中の数学的に不正確な記述にあった。これは自分の理解が進んだ証拠として喜ばしく思う反面、良いと思っていた教科書の不備に気づいてしまう残念さも感じている。
これからの集合と位相 梅原・一木 裳華房
物理をやるならカタカナの”トポロジー”だとかリーマン幾何学だとかを考えがちだ。そういうのを目指してタイトルが関係ありそうなちょっとアドバンストな数学書に手を出すと多様体論とか群論、位相空間論の知識が足りないのであえなく撃沈してしまう。そんな経験はないだろうか?そんなの必要ないとすっぱり諦めてしまってもいいが、これ一冊と思って丹念に読んでみるとだんだん好きになってくる。どうせ機内でやることもないのだから、集合の濃度だとかツォルンの補題だとかじっくり読んでみるのはどうだろうか。裳華房出版社note: https://note.com/shokabo/n/n153bc1749eb2
個人的に買ってよかったと思った教科書である。章立ての意図が明確で演習問題も多く、細かい話しは付録に回っていたりして読みやすい。間違いやすかったり勘違いしやすい項目には注意というセクションが設けられていて読んでいてためになる。論理と集合の関係に関しても最初に記述があり数学基礎論のよい導入も与えている。論理に飛躍が少なく、しっかり向き合えばちゃんと理解を導いてくれる記述になっている。位相空間論これ一冊に選んで長く親しめる教科書である。
幾何学と代数系 金谷 森北出版
代数幾何学という教科書を読むとスキーム?物理と何の関係があるんだ?と思うような抽象的な概念が出てきて目を回してしまう。この本は代数幾何学の本ではないので安心してほしい。幾何学的代数(Geometric Algebra)という全く別の分野で、四元数、グラスマン数、クリフォード代数を扱っている。議論を3次元に限定しているし最後にはカメラの幾何学が議論される。直観を大事にする物理ととても相性が良い。ハードカバーである点は注意。
微分幾何学とトポロジー 永長 丸善
同著者のほかの著書と同じで羅列形式で書かれた微分幾何や代数トポロジーの用語・定義解説ノートである。『理論物理学のための幾何学とトポロジー』(中原 日本評論社)を10倍に薄めたものと考えるとよいだろう。物理学者が書いているので物理に関係がある概念がコンパクトにまとまっている。一方で説明を簡潔にしようとするあまり、記号の定義などが欠落していることが多々あり、ときおり説明として意味をなしていない箇所がある。また数学概念の定義は(細かいことを言うと)間違っているもしくは不正確であるところがある。物理学のセンスではそんなの当り前だからいちいち断らないよということを省略しているとみるべきだが、だとすると数学を勉強できるぞと期待して記述を読み込もうとすると徒労に終わるだろう。まじめにフォローするに耐えられるつくりにはなっていないことに注意しないといけない。時々読み返してみてこの本の内容をどれくらい知っているかをチェックするのに使うとよさそうだ。
内容の難易度と記述のスタイルとしては『微分・位相幾何』(和達 三樹 岩波)と重複するところが多い。このことは巻末にもそう書いてある。数学的にどこまで厳密かに関してはどっちもどっちといったところだが、和達本の方が数学用語の誤用はないものと思われる。一方でMorse理論やカタストロフィ理論は永長本の特徴だろう。
はじめて学ぶリー群 井ノ口 現代数学社
微分幾何の基本概念 J. A. ソープ 丸善
多重線形代数I テンソルと外積代数 井ノ口 現代数学社
初学者にもとっつきやすいように書かれており、線形代数のよい復習になった。記号をいろいろ定義するのはいいのだが、定義が一体どこに書かれているのかわかりづらいのが難点。どこかに記号索引があるべきだろう。コラムや脚注が読んでいて楽しい。代数学の教科書はとにかく次から次へと定義定義定義で新しい空間を作ってはその双対やらテンソル積やらを導入していくスタイルばかりで、ゴールが見えない。この教科書もその例にもれず定義定義定義という印象を受けた。いろいろなことが書いてあるんだが、それらが一体何に使えるのかがよくわからなかった。何か別の本を読んでいるときにひょいとその定義が出てきてそういえばこの本に書いてあったなといって読み返すような本なのだろう。読みやすい文章といえばそうなので後続のII, III巻も期待したい。
声に出して学ぶ解析学 オールコック 岩波書店
解析学の本当の初学者のための入門書。いい感じだが個人的には簡単すぎた。ε-N?聞いたことないっていう人のための本だ。
もっとライトな数学書
数学の抽象的な概念の洪水で消耗してしまった。ダウンロードした本がはずれだった。到着まであと10時間強、座席のタッチパネルが壊れていて映画を見るわけにもいかない。そんな不測の事態に備えて、ライトに読める数学書も多めにダウンロードしておこう。
群と幾何を見る 正井 日本評論社
Kindleデバイスと互換性がない。基本群、被覆空間の説明がよい。
Math without numbers Beckman Dutton
数学の専門書を英語で読みたいとは思わないが、一般向けなら問題ないだろう。
数学の世界地図 古賀 KADOKAWA
どの数学分野の本を読もうか迷っていた時に数学の全体像を知るのによかった。本ブログで紹介している本はほとんど幾何学に関係しているがそれ以外にもいろいろな分野があることが分かる。自分の興味のあるトピックを探すのによいだろう。
「集合と位相」をなぜ学ぶのか ー数学の基礎として根づくまでの歴史 藤田 技術評論社
物理学徒が数学を学びたくなったとしても集合と位相はなんとなく飛ばしたくなりがちだ。この概念がなんで必要なのか動機づけがわかれば学ぶ意欲につながりもするだろう。
現代数学への招待:多様体とは何か 志賀 ちくま学芸文庫
多様体について一般向けに解説した本。多様体論は定義を読むとそんなものかとなんとなくわかった気になるが、いったい何がしたいのか、何が大切なことなのかがわかりにくい。位相、微分、滑らかさなどの概念をじっくり説き起こすことで多様体論の本質がなんかわかった気になる。
集合論入門 赤 ちくま学芸文庫
ライトな本の項目で紹介しているが、結構しっかり書かれている集合論の本である。語り口がとっつきやすいのでただただ読みやすい。
敷居が高かった本
スピン幾何学 本間 森北出版
クリフォード代数の導入から入る。初学者には敷居が高い。
リー代数と素粒子論 竹内 裳華房
リー代数を勉強するには書き方が難しめ。もう少し平易な本を読んでから再読しようか。素粒子論の話は最終章に出てくるだけなので、物理とリー代数のつながりを知りたいならもっと別の本がありそうだ。
具体例からの表現論入門 平井 日本評論社
プリントレプリカ形式。量子力学などへの応用が議論されていてよい。
幾何学と不変量 西山 日本評論社
プリントレプリカ形式。
計量微分幾何学 松本 裳華房
計量の話は数式が多用されるので手を動かして自分で確認しながら読み進めないとなんもわからない。こういう本は飛行機には向いていない。ただ、随所に出てくる小話は読んでいて興味深い。リーマンの講演を引用したり、歴史的経緯を説明しながら諸概念が導入されていく。整理された今風の教科書を読むより概念導入の意義がつかみやすいのではないだろうか。
現代微分幾何入門 野水 裳華房
第一章が微分可能多様体の基礎事項の確認から入る。概念導入の際の動機付けがほぼないので初学者がついていくのにはだいぶ敷居が高い。
幾何概論 村上 裳華房
群と位相に関して既知として第一章に簡単なまとめがある。全体的に淡々と進むので初学者には敷居が高かった。
群と表現 横田 裳華房
同著者の『群と位相』がよかったので本書も読んでみたが1章の準備だけで初見の抽象的な概念が大量に出てきて読み進めるのが困難になってしまった。初学者には敷居が高い。
古典群: 不変式と表現 ワイル シュプリンガー・ジャパン
古典的な名著とのことだが、説明が丁寧なわけではないので初学者向けではない。機内に持ち込んでも読み進めることは難しい。
接続の微分幾何とゲージ理論 小林 裳華房
第1章1節を読めばわかるように多様体の基礎は既知とし、ベクトル束の定義から始まる。初学者に一切配慮する気がないすがすがしいまでのぶっ飛ばしっぷりである。記号の定義がなされないまま話が進んでいくので典型的なお気持ち本である。つまり読者が著者の考えを補完してくれることを期待した書き方がされている。こういう本はちゃんと理解したい人には記述が不十分に感じるし、ちゃんと補完できるレベルの人にはそもそも必要がないし、お気持ちだけ理解できればいいやという態度の人には身にならない。存在価値が不明な本である。
理論物理のための 現代幾何学 秦泉寺 裳華房
徹底的に物理学科4年生のために書いているところが面白い構成だ。学生がタイトルの内容に関して講義を受けているリアル感が表現されていてよい。位相や多様体など、物理学徒が避けたくなってしまうような抽象的な数学をなぜ勉強しないといけないかが、具体例と著者の体験を混ぜながら根気よく説明されている。ガチの数学書を読み始める前にあるいは読んでいて嫌気がさしたときに該当箇所を読んでみるとモチベが復活するだろう。読み物としてとっても楽しく読めたのだが、数式多めでハードカバーなので飛行機では読みにくい。
手を動かしてまなぶ群論 原 裳華房
信じられないくらいレイアウトに工夫をして書かれた本である。いったいどれほどの代償を払えばこれほどの完成度を得られるのか。第一章が初等的な整数論から始まっているのはタイトルからは予想できなかった。しかしそこから始めなければ、地に足の着いた理解はできないという意図なのだろう。普通のよくわからない群論の教科書は群の定義を与えて、例を2-3与えたあとは抽象論が繰り広げられて訳が分からないくなる。そういうのとは一味違うようだ。とはいえ読書をするというより高校受験の参考書を読んでいるような感覚になる。読み手にもう少し自由度を与えてもいいのではないだろうか。ある程度群論を知っている立場から読むとそうとうやかましい作りだと思う。ただし大事なところは太字になっているし章立ては秩序立っているので、読みたいところを見つけ出すのはそんなに苦労しないだろう。タイトル通り手を動かしながら読み進めるための構成になっているので飛行機で読むのは適さない。
曲率とトポロジー 河野 東京大学出版会
プリントレプリカ形式。数式の行間がじんわり広くて読み進めるのがしんどかった。図もレイアウトもきれいなのに自分でもなぜ読み進められないのかよくわからない。
多様体入門 松島 裳華房
旧版で読んだ。段落の1文字下げくらいしかレイアウトの工夫がないのでとても読みにくい。新装版でも文字が多少大きくなっているくらいで改善は見られない。それを抜きにしても初学者が読むために書かれているとは言えない。各概念・定義等導入の動機や意義は皆無なので、事実の羅列である。内容が高度だとか難易度が高いとかの評価を聞くが、単に筆者が知らない人向けに説明することに関して手を抜いていると言った方が正確だろう。別の本で勉強して多様体がよくわかってから自分の理解を確かめるために読むような類の本であるが、だとしたらこの本を必要としている人は極めて限定的である。
勉強が進んでいくたびにちょとずつ読み直しているが、良さもだんだんわかってくる。第1章の準備はユークリッド空間のまとめである。多様体論は局所的にユークリッド空間と同相な位相空間を扱うわけだが意外とユークリッド空間ってなんだったっけ?となってしまいがちなので、最初にこういうまとめがあるのは構成としてよいと思えてきた。
代数学1---群論入門 雪江 日本評論社
プリントレプリカ形式。演習解答に誤答例がのっているのがユニークだ。演習問題を多くのせることを目指したと書いてある通り、読者に考えさせながら読ませる工夫がなされている。そのためじんわり行間が広いことが多く、この言葉や記号の定義は何だっけ?とか、○○なので○○と書かれているがなんでそんなことが言えるんだ?とかつっかがりながら読み進めることになる。勉強になるのだが飛行機で読むには不向き。
SL(2,R)の表現論 落合 朝倉書店
SR(2,R)とは実2x2行列で行列式が1になるものである。これだけで一冊の本が書けるの?と思うかもしれないが意外と分類が豊富で最初のほうは読んでいて楽しい。しかしだんだんと分類が増えていき言っていること、目指していることが何なのかわからなくなっていく。初学者向きではないし、表現論の本はどの本を読んでも結局何がしたいのか、問題意識は何なのかが共感できない。
線形代数とグラスマン多様体 高崎 日本評論社
個人的にここ最近もっともがっかりした本。最初の二ページのグラスマン多様体の定義が理解できなかった。これは結構ショックである。
n次元線形空間のm次元部分空間全体の集合をGr(m,U)と置いてグラスマン多様体を定義している。それはいいとして次ページの横断性条件が理解不能である。U^(J)と交差しない部分空間はm次元に限らないのだからGr(m,U)の部分集合になるわけないではないか?もちろん読者側の理解不足が原因だと思うが、初学者を置いてけぼりにする書き方である。もっと別の本で導入を読んだほうがよい。
テンソル代数と表現論 池田 東京大学出版会
表現論もテンソル代数もキライなので案の定何のことやらさっぱりわからない。いろんな線形空間をあつめてひっつけを繰り返していろいろな概念がわらわらと出てくるが結局何がしたいのかわからない。表現をしたとして何ができるようになるのかもよくわからない。最初の章にジョルダン標準形が出てくるが、後の議論と関係ないのも構成として疑問である。著者に伝えたいメッセージがありそうだというのははじめにを読んで感じるのだが、つかみきれなかった。
位相空間の道標 小池 共立出版
段組みもきれいで図も多く、一見すると読みやすいはずなのだが、読んでいるとじんわり行間が広く、よくわからなくなってしまった。大雑把に述べると、と最初のほうで言いたいことの要約があるのはいいのだが、それがなんだか逆に何が言いたいのかわからないことがしばしばあった。道標とタイトルにあるのに、なぜだか読んでて迷子になる本である。不思議だ。言い方に困るのだが、とっつきやすいようにくずして書こうとして悪い方向に数学書っぽくなくなってしまったような、そんな印象の本である。数学を理解するのに視覚イメージに頼るのはあんまりよくないんじゃないのかなという感想を持った。位相空間論という抽象的な議論で視覚イメージは助けにはなるが、ちゃんとした理解を目指すときにはむしろ邪魔になる。
個人的に詰まったのはベルンシュタインの定理である(p12, 定理1.3.3)。ここの記述を初見で読んで理解できる人はいるだろうか?
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