2026年9月3日木曜日

『微分幾何学とトポロジー』を読む

永長直人著『微分幾何学とトポロジー』(東京大学工学教程・基礎系数学、丸善出版、2016年)は、微分幾何学とトポロジーの基本的な概念からその応用までを、直観的な理解を重視しながら簡潔にまとめた入門書である。

私は数学には疎く、微分幾何学やトポロジーといった難解な数学は当初ちんぷんかんぷんだったのだが、本書は物理学の直観に寄り添って書かれており、驚くほどすらすらと読むことができた。とても楽しい読書体験だった。おわりににあるように「厳密性は犠牲にしても「直観がはたらく」ような記述」が見事に体現されている。あまりにも楽しかったので、各章について勝手に加筆修正案まで書いてしまった。以下にまとめる。

1 微分形式

p13, 式(1.28)は証明があったほうがよい。
p13, 式(1.29)で\(a_i(\mathbf{x})\)なる謎の記号が表れるが、点\(\mathbf{x}\)における実数値関数であるなどの補足が必要。直観で補えとでもいうのか?
p16, 「微分可能な写像\(\phi:U\rightarrow V\)」とあるが\(U,V\)がなんなのか説明が必要である。1章はユークリッド空間の話なのでその中の開集合なのだろう。これが直観ということかな。
p16, 引き戻し\(\phi^*\omega\)は「\(x\)から\(y\)への」変数変換ではなく逆である。
p17, 式(1.41)はp14,15の議論を繰り返しているだけで冗長である。

2 曲線と曲面の微分幾何学

p21, 式(2.5)は正しくは\(s(t)-s_0=\int_{s_0}^{s(t)}ds=\int_{t_0}^t|\frac{d\mathbf{r}(t)}{dt}|dt\)とすべき。

3 多様体

p55, 定義3.5 条件(iii)は「1対1であり」が不要。写像の同相性から自動的に従うことは直感で理解できる。
p56, 式(3.3)は未定義。\(\frac{\partial (y^1,...,y^n)}{\partial (x^1,...,x^n)}\)は\(i,j\)成分が\(\frac{\partial y^i}{\partial x^j}\)の\(n\times n\)の行列。
p57, 式(3.6)は正しくは\(X_P=\sum_{i=1}^n a^i(\mathbf{x}(P))(\frac{\partial }{\partial x^i})_P\)である。ここで\(\mathbf{x}\)は座標系なので\(P\in M\)の関数である。一方で\(x\)は座標であるとされているが、どの点のことかが明示されていないからである。「\(x\)は\(P\)における座標である」と書かれていれば変更は必要ない。
p58, 「\(\varphi\in T_P^*(M)\)は線形写像」とすべき。物理の直観とは線形性を感じ取れということなのかな。
p59, \(\langle , \rangle\)は内積ではなく双対ペアリング: \(T^*_P(M)\times T_P(M) \rightarrow R\)である。p18で書いてあるように内積には対称性(\((\alpha,\beta)=(\beta,\alpha)\))がないといけないことは直観から明らか。
p59, 「直積」ではなく、「テンソル積」である。こうしないとp9のテンソル積の定義とも矛盾する。また\(T^a_b\)は多重線形写像であるというべきである。本文のように「テンソル空間とは(中略)(3.16)のことをいう」だと説明になっていない。
p60, 式(3.21)の定義において\(i(V)\)という謎の記号をいきなり出しているが、本書初出である。「内部積である」のように記号の宣言文が必要。直観とは不十分な説明から言いたいことをくみ取ることなのかな。
p60, \(p\)形式\(\omega\)とベクトル場\(X_1...\)との間に\(\omega(X_1,X_2,..,X_{k+1})\)のような謎の表記法が書かれているが未定義である。上で指摘したようにテンソル積を多重線形写像として定義していないので自力での行間埋めが不可能である。写像としての多重線形性も歪対称性も解説されていない。
p60, \([X_i,X_j]\)が一階微分演算子であることを指摘しているが行間が広すぎる。
p61, 「第3項の寄与が本質的であることがわかる」と書かれているが本質とは特に何の関係もないし、そもそも本質とは何なのか本書で説明がない。本質だ~!と直観を持てとでも?
p61, 式(3.26)は正しくは\(\frac{dx^i}{dt}=V^i\)である。
p61, 式(3.28)は正確には\(...=V^i(\mathbf{x}(t))\frac{\partial}{\partial x^i}|_{\mathbf{x}=\mathbf{x}(t)}\)である。どこの点での値を評価するのか?を明示すべき。直観で補うのは危険である。
p63, 式(3.29)の変形は行間が広すぎる。二段目\(\rightarrow\)三段目は初期条件(第一項)および\(ds^*,dt\)の可換性(第二項)を使っている。四段目は\(s^*\)を\(s\)に置き換えたときの余分な項を\(O((\Delta t)^2)\)に吸収している。
p65, 式(3.45)は正しくは\(\mathcal{L}_V(T)|_{\mathbf{x}}\equiv\lim _{t\rightarrow 0}\frac{1}{t}(f_{-t}(T(\mathbf{X}))-T(\mathbf{x}))\)。\(t\)だけ進んだ位置の\(\mathbf{X}\)を\(f_{-t}\)で\(\mathbf{x}\)に押し出すのだから、値の評価は\(\mathbf{x}\)で行う。直観で分かるのになあ。
p65, 式(3.46)は正しくは\(f_{-t}(\varphi(X))|_x\)である。式(3.45)の誤植と同じ理由である。
p67, 式(3.54)の最終段は正しくは\(=\sum_{i,j}\omega_{i,j}(V^jdx^i-V^idx^j)\)である。
p67, 式(3.55)において外積\(\wedge\)とリー微分\(\mathcal{L}_V\)とのライプニッツ則は解説がない。この行間を読者が埋めるべきとでも思っているのか?
p67, 式(3.56)は一般の\(p\)形式に対しての内部積のライプニッツ則\(i_V(a\wedge b)=i_V(a)\wedge b-a\wedge i_V(b)\)を解説なしに使っている。
p67, 式(3.57)の最終項は正確には「\(+a\wedge ([db](V))\)」と書かないと\(V\)の効果範囲が分からなくなる。まあ、直観的に明らかだけどね。
p68, 式(3.66)は\(=\sum_{j=1}^4U^jW_{,j}^i-W^jU^i_{,j}=U^tW^i_{,t}+V^{\alpha}W^i_{,\alpha}-W^{\alpha}U^i_{,\alpha}\)である。下付き\(_{,j}\)は何だこれ?と思うがp66で定義している。
p75, 式(3.97)は行列\(A\)において\(dA\)が何なのか定義されていない。

4 多様体と積分

p95, 式(4.1)において\(P_i\)の定義がない。\(n\)次元ユークリッド空間における点である。

5 ホモロジーとコホモロジー

p103, \(\alpha\circ \beta\in G\)と明示しないと演算に関して閉じていることにならない。
p103, 条件(ii), (iii)において「ただ1つ存在し」と「一意的に存在する」は不要である。一意性は群の定義から導くものである。

6 ファイバー束と特性類

p119, (iv)は「線分から」ではなく「\(E\)から」、「逆写像」ではなく「逆像」(ひぇぇ~)、「線分\(F\)への写像」ではなく「\(x\)にくっついている線分\(F\)をとってくること(みたいなもの)」とするのがよい。”定義”を書いている場面ではないので厳密である必要はないが、不正確であることは正当化できない。特にファイバー束を直観で理解するのは危険である。
(vi)は\(\pi\circ (\Phi_{\alpha}^{-1})\)と書いた方が誤解がない。
p122, 式(6.12)は\(H_u(P)\).


本書で最もページ数を割いている3章を中心に読んだが、現在のところでの講評としては、「数学的厳密性を犠牲にして直感が働く記述」とは定義していない記号を使って議論することではないし、数学的に不正確な記述に無頓着でいることではない。読んでいてまるで障害物競走のように感じた。本書を読んで理解できないのは記述が高度なわけでもなく、読者の能力が不足しているわけでもない。理解するのに必要な情報がそもそも書かれていないことが多いし、数式の比率を多めに解説しているわりに記号の基本的性質を明示するなどの教育的配慮を欠いており、広すぎる行間をうめることを読者に丸投げしているのである。意図が十分に取れない記述も散見される。背景を知らない読者は、なにか深遠なことが書かれているのではと期待してあーでもないこーでもないと考えをめぐらせるが、それは徒労であることにしばらくたってきづくのであるならば読者が不憫でならない。

以上のようにとても良くできた教育的なテキストなので、一人でも多くの人にこの本を読んでもらいたい。そしていつか感想をみんなで語らえたらいいなと思う。

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